水槽がアートに。「天野 尚 NATURE AQUARIUM展」で水景にすべてを捧げた男の生き様を見た。
日本

NATURE AQUARIUM

あなたは水景にすべてを捧げた男、天野 尚の存在を知っていますか? 私はこの展示会が開催されるまで彼の存在を知りませんでした。

水族館に良く足を運ぶ筆者ですが、水槽そのものをアートとして見るよりも、水族館などで生物を観察することに強い興味を示していた私は、美しい水景がすぐ手の届く距離にありながらもあまりそれに注目したことがありませんでした。

私が水景に注目するきっかけとなったのは、「すみだ水族館」入口付近にある完成度の高い洗練された水景との出会いでした。あのときの衝撃は今でも鮮明に覚えています。

そんな私が導かれるように辿り着いた「天野 尚 NATURE AQUARIUM展」で味わった言葉にできないほどの感動とは? 溢れんばかりの想いを赤裸々にレポートさせていただきます。

まずはじめに

エントランス
天野 尚氏は偉大な写真家でもあり水景クリエーターでもありました。東京ドームシティの1F「ギャラリー アーモ」で開催されている「天野 尚 NATURE AQUARIUM展」では、そんな故人の作品を知ることができます。

この日は平日であまり混み合っていなかったので、すぐに中に入ることができました。
エントランス
2015年8月に61歳という若さでこの世を去った天野氏。亡くなった後もこんなに大々的な展示会が開催され、彼の遺した作品の数々が生き続けているなんて、なんだか感慨深いです。
天野尚
この写真は天野氏が自身で制作した作品をメンテナンスしているところでしょうか?「NATURE AQUARIUM」と接しているときの彼の表情はまるで少年のようです。

私はこの写真を一目見てすっかり天野氏のファンになってしまいました。いくつになってもこんな風に好きなことにまっすぐな人間でいたいですね。

「生態風景写真」

大伴カメラ
こちらは天野氏が自然を克明かつ精彩に記録するために用いられていた大判カメラ。彼の「生態風景写真」は世界中で高い評価を得ているということですが、撮影方法は独学で習得したのだとか。
朝焼け雲
「朝焼け雲」
アマゾンの石庭
「アマゾンの石庭」
晴れ渡る岩稜
「晴れ渡る岩稜」
金剛杉屹立
「金剛杉屹立」
※2008年7月開催のG8北海道洞爺湖サミットの会場に飾られた佐渡原始杉の超特大写真パネル
新緑の奥入瀬
「新緑の奥入瀬」
錦秋の山並み
「錦秋の山並み」
森の叙情詩
「幽玄の白谷雲水峡」
谷川岳紅葉
「谷川岳紅葉」

彼の写真は私たちに大切なことを思い起こさせてくれます。そう、地球はこんなにも美しいということ。この奇跡のような地球(ほし)に生まれた私たち人間は幸せです。

自然が豊かな伊豆で育った私が自然の大切さやその存在の大きさに気付いたのは、東京に出てきてからのことでした。それでも10代、20代の頃は東京のような大都会への憧れの気持ちが強かったです。

東京は、夢や希望に満ち溢れたなんでも手に入る場所だと勘違いしていました。TVで地球温暖化や森林破壊などの特集を見ても、どこか遠く知らない世界で起こっている自分には無関係な出来事だと思っていました。

ただ私の中に幼い頃からあった動物や自然を愛する気持ちは決して消えることはありませんでした。今思うと当時の私は浅はかだったと思います。滅びゆく自然があることを知っていながらもそれに目を背けて自然が好きだと謳っていたのですから。

今の私にとっては、壮大な自然の景色ほど自分の心を豊かにしてくれるものはありません。天野氏の写真は毎日東京の雑踏の中でウンザリしながら働く私にこの上ない癒しと勇気を与えてくれました。

手つかずの自然をありのままに記録した写真の数々をじっくり見つめていると、いつの間にかその世界観に引き込まれ、天野氏と一緒に大自然の中を冒険しているような気分になります。

自然に寄り添う彼とそれに答えるかのように色や形を変える自然。自然に溶け込んだ天野氏ならではの写真は、見る者全てを魅了します。

「NATURE AQUARIUM」

「NATURE AQUARIUM」とは?

水槽の中に自然の美しさと生態系の仕組みを再現した水草レイアウトがネイチャーアクアリウムです。ネイチャーアクアリウムは小さな自然です。水草は、二酸化炭素を使ってたくさんの酸素を出します。魚やエビなどの生きものは、その酸素を使って健康に生きています。また、魚のフンなどで汚れた水は、微生物と水草によって再びきれいな水になります。これらのしくみは、自然とまったく同じなのです。

-株式会社アクアデザインアマノ広告「Balance Of Nature」より-

「水景写真」

光彩の水辺
「光彩の水辺」
原生林輝く
「原生林輝く」
山野の彩り
「山野の彩り」
大自然の縮図
「大自然の縮図」

写真を通して見ても水槽の中にはリアルな自然を超えた水景があるのが分かりました。たくさんの生き物が互いに関係しながら生きている構図を思い描きつつ水景写真を見ていると、その景色がとても愛おしく感じられます。

1つ1つの水槽にはテーマがあり、物語があります。たった1つの水槽の中に自然界の壮大なドラマが展開されているのですから、感動せずにはいられません。

「NATURE AQUARIUM」

水景
水景

水景
水景
水景
水景
「NATURE AQUARIUM」は紛れもなく「生きたアート」でした。緻密でありながらもダイナミックな水景を見ていると、ついつい感嘆の声が漏れてしまいます。もちろん癒し効果も抜群です。

森林の中でマイナスイオンを浴びているときのような感覚を味わいながら、同時にノスタルジックな気分になりました。毎日自然の中で遊んでいた子供の頃の記憶が甦り、切なくなったのです。あの頃の私にとっては、大自然が自分の世界の中心でした。

天野氏の「NATURE AQUARIUM」が人々の心を掴んで離さない一番の理由。それは子供と同じ目線で自然を見続け、ありのままの自然を表現することができる彼のピュアな人柄にあったのではないでしょうか?

「巨大ネイチャー水草ウォール」

水草壁
水草壁
水草壁
水草壁
苔類やシダ類を始めとしたさまざまな水草を着生させたそそり立つ壁面「巨大ネイチャー水草ウォール」(※世界初公開)は、まるで熱帯雨林の水辺を実際に見ているような臨場感を放っていました。

特別水槽として生前の天野氏が構想した「ネイチャー水草ウォール」を巨大スケールで再現したこちらの作品を目の当たりにして、その圧倒的迫力と息をのむほどの美しさに、私は言葉を失いました。

世界のアマノ

水中の森
水中の森
水中の森
水中の森
リスボン海洋水族館収容、全長40mの世界最大のネイチャーアクアリウム「水中の森」映像
天野尚
天野 尚氏と「水中の森」制作に携わった総勢約60名のスタッフ。
熱帯雨林の夜明け
天野氏が世界一好きな風景「熱帯雨林の夜明け」

“水景クリエーター世界のアマノ”として世界中の人々から愛された天野 尚。様々な水族館から「NATURE AQUARIUM」制作のオファーを受けていた彼がなぜポルトガルのリスボン水族館を巨大ネイチャーアクアリウム制作の舞台に選んだのか? その答えに彼の生きざまが示されていました。

「単純に他の水族館にはないパッションを感じたからだ」と。「小さな生命を愛せずして、大自然を語ることはできない。」という信念を持つ天野氏の自然への強い思いと想像への情熱は若き水景クリエーターたちに引き継がれ、例え時が流れても色褪せることなく後世に語り継がれていくことでしょう。

奥深い水景の世界

近年は「世界水草レイアウトコンテスト」が世界的に注目度の高いコンテストとなっていることからも、水景に対する人々の関心の高さがうかがえます。また、「NATURE AQUARIUM」がメディアなどで取り上げられることで、一般的な広がりも見せているようです。

展示会期間中はトークショーや水草ビギナーの方にもオススメの、水草と石や流木を用いた「NATURE AQUARIUM」の作り方をプロの水景クリエーターが実演を交えてレクチャーしてくれる「ビギナーズワークショップ」が開催されるようです。これを期にあなたも水景の世界にどっぷりハマってみませんか?

「天野 尚 NATURE AQUARIUM展」
東京都文京区後楽1丁目3番61号 東京ドームシティクリスタルアベニュー沿い「Gallery AaMo」
アクセス JR総武線水道橋駅から徒歩5分、都営三田線水道橋駅から徒歩3分
開催期間 2017年11月8日(水)~2018年1月14日(日)
「天野 尚 NATURE AQUARIUM展」特設HPはこちら

この記事を書いた人

Makiko Suga

Makiko Suga海洋生物の素人スペシャリスト/動物&自然オタク/世界中の秘境地&穴場スポットマニア

幼少期に有名なイルカの研究家と運命的な出会いを果たす。以来海洋哺乳類に魅せられ、海洋生物学者への道を志すが挫折。その後は海洋生物とは無縁の生活を送っていたが、2015年に海洋生物の宝庫であるカナダに留学。あるクジラとの出会いが自分の人生を変える。子供の頃の夢を追い続けながら世界に目を向けている永遠の旅人。得意分野は自然、動物関連だけにとどまらず、多岐にわたる。

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