アルバニアは国土の西側すべてが海岸線で、アドリア海(北部)とイオニア海(南部)の2つのゾーンを持つ贅沢な場所であることは、あまりよく知られていません。
今のところほぼアルバニア人にしか需要のない、この穴場情報を、毎年この時期になるとアルバニア人の友人たちのバカンス自慢投稿により、SNSのタイムラインがアルバニアのビーチに乗っ取られる被害に遭い続けているわたしが全力でお伝えしますね。
コソボとアルバニアの切っても切れない関係
国民の90%以上をアルバニア系住民が占めるコソボ。しかしコソボのアルバニア人にとって、アルバニアはあくまでもよその国。
アルバニアがかつて鎖国していたことから、「アルバニアのアルバニア人って感覚がずれているよね~」という扱い。
▲でもボールだけは1つになりたい(図柄はコソボとアルバニアの国旗)
中には、アルバニア内外にまたがっているアルバニア人居住地域を合体して国を作りたい、と思っている民族主義者もいるようですが、
これ以上バルカンでの紛争を好まないEUが考えたコソボの憲法によると、「コソボが他の国と合体して国を作ることは禁止」なので、多くの人はアルバニアと1つの国になることは望んでいないようです。
まぁ実際は、コソボの方が経済力が上回っているという事実(多額の国際援助をうけているから)が、アルバニアと合体する必要性を感じさせない最大の理由だと思いますが。
それでも、専門教育を受けにアルバニアの大学に進学したり、サッカーの正式な国際試合ではアルバニアの競技場を借りないとホーム選ができなかったり、とアルバニアに頼っている部分も多くあります。
一緒なようで一緒じゃない、見下したいけど見下しきれない、理解できないけど惹かれてしまう……。コソボのアルバニア人は、そんな1/3の純情な感情を悶々と抱いて日々暮らしているんです。
そして、その思いが爆発するのが夏。コソボにはなくてアルバニアが独り占めしてるアレ……。
ビーチです。
悔しい! 悔しいけど……、俺たちの好きな夏はアルバニアにしかない…!
というわけで、毎年この時期になると、勢いよく掃除機に吸い込まれていく砂のごとく、コソボのアルバニア人もアルバニアへとビュービュー吸収されていきます。
アルバニアのアルバニア人によるアルバニア人のためのビーチ
さて、アルバニアのビーチ。
コソボ人がそんなに夢中になるほどいいの?という疑念の声が聞こえてきたので、ここらでチラ見せしますね。
おお~。
そうなんです。ちょっと舐めてた自分を反省してください。
アルバニアは、365日のうち300日が晴れと言われるほど、天気に恵まれた場所。
それに加え、恐るべき物価安・新鮮な魚介類があると来たら、逆になんでこんなに見向きもされていないのか。今世紀最大の謎の1つです。
その巨大な謎に挑んだわたしの答え。
「アルバニア人が多すぎるから」
ちょっと古いデータなのですが、この数字を見てみて下さい。
1位 コソボ 170万人
(以下、マケドニア39万9200人、モンテネグロ18万6,500人、イタリア14万7,000人……と続く)(出典 スイス便利情報 Swissinfo.ch)
コソボの全人口は200万人です。
え!? ってことは、ほぼ全員集合じゃん! 8時なの?
ナイス反応ありがとうございます。
つまり、夏の間のアルバニアのビーチは、アルバニア本国のアルバニア人+コソボのアルバニア人によるアルバニア人のためのビーチになるんです。
そりゃよそ者が入り込む砂、残ってないですよ。
▲店も独特すぎてついて行けないし
▲ビーチにある注意書き 「”ドラッグ”とアルコールが入った状態での遊泳禁止」「おなか一杯で泳ぐのも禁止」……
▲炸裂するアルバニアンジョーク@海の家
「ドローン」なんていう、アルバニア人にしかツボが分からない名前のホテルもありました。
(これは2014年のサッカー欧州リーグ・アルバニア対セルビア戦の最中、「大アルバニア主義」の国旗を掲げたドローンが乱入、それをセルビアの選手が引きずり降ろしたことからスタジアムが大暴動に発展した事件に由来する。それ以来、アルバニア人の間ではドローンが特別視されるように。)
さらにですね、ちょっと引きの図でビーチを見てみると……。
後先考えない開発を急ピッチで行ったため、実際のところ景観はめちゃめちゃ。ビーチギリギリまで無個性なホリデーアパートが乱立。
それはそれで「一種のアルバニア的景色」ではありますが、本来はそのままできれいなはずのビーチと、その幼稚な使われ方のミスマッチさは、アルバニア以外のビーチを知っている人にとっては決して心躍る光景でないのも事実。
私をビーチに連れてって
偉そうに文句言ってゴメンナサイ。
しかし、アルバニア文化圏以外からアルバニアのビーチに来る人は、多かれ少なかれ似たような心情を抱くのではないかな、と思うので、探してみました。
破壊されていないアルバニアのビーチを!
ここ!
アルバニア南部、イオニア海沿岸のビーチVuno(ヴノ)です。ちなみに最寄りのビーチ、Dhermi(デルミ)とHimare(ヒマラ)は、南部地方でアルバニア人に大人気の場所。
普通だったら通り過ぎてしまうような小さな村のビーチの存在を知ったのは、そこに元学校を改装した面白い宿があるとの情報を得たから。
(アルバニアでユニークな宿を運営するTirana Backpacker Hostelの姉妹店です)
実際訪れてみると、まずVuno(ヴノ)の村自体が想像をはるかに超えて魅力的な場所でした。
▲山の斜面に沿って家が建っている
村には商店が1軒あるだけなんですが、昼夜問わずその軒先に大人も子供も人が集っていました。
▲その軒先で朝ごはんに食べたローカルスナック「ロクマ」。揚げパンとドーナツの中間のような食べ物。素朴でシンプルだったけど味は絶品。
ビーチはこのVunoの村から歩いて1時間くらいです。
こんな景色がひたすら続きます。徒歩でしかアクセスできないというその制限が、気分を盛り上げてくれます。
アルバニアは未整備で混沌とした空気を感じる国。そこに手つかずの自然が合わさって、ビーチ到着時には秘境に来た感が最高潮に達します。
やればできるじゃん! アルバニア
ちなみにこのビーチでは、アルバニア本国のアルバニア人及びコソボのアルバニア人の姿はそれほど多くありませんでした。
きっとこういうビーチは、例えば日本に旅行へ来たのに「東京には行かず栃木へ行く」みたいな、邪道な選択肢(栃木県民のみなさんゴメンナサイ)なんだと思います。