photo by David Shankbone
私が添乗員をしていたのは今から12年ほど前で、当時はまだ今のように世界情勢が混乱や危険を極めていなかった頃でした。
日本人に対する渡航禁止国も今ほど多くない当時、私は旅慣れた方々を、旅行者もさほど見かけないような僻地へとご案内することを使命としていた旅行会社に勤務していました。
「シナイ山と聖地イェルサレムの旅」と称してエジプトから入り、砂漠を丸一日かけてシナイを目指し、夜中に5時間かけて登頂、初日の出を仰いだ後イスラエルに入り、イスラエルをほぼ網羅してイェルサレムで締めるという15日間ものツアーに、合計5回ほど添乗しました。
イスラエルって、どんなところ?
photo by David Shankbone
イスラエルと聞いて、普通は中東に位置する国、という事は分かるけれども、宗教や人種、文化的歴史的背景や見所などはガイドブックも豊富でないだけにパッと思い浮かぶわけでもないと思います。
当の私も、初めて訪れた時はトルコのもう少し厳格なバージョンを想像して行きました。
しかしながらそこは想像とはかけ離れた世界があり、文化も、風習も、人種も、そして土地も全てが厳粛で畏怖でした。
一言でいうのなら、聖書の世界がそのまま今も残っているような、危険な夢の世界のようであり、しかし一歩間違って足を踏み入れたら一触即発で戦場と化すであろう、張りつめた空気もありました。
恐怖の体験いろいろ
photo by David Shankbone
まずぶち当たった壁が、シナイ山を越えてイスラエルに入る時の税関です。日本人だとほぼノーパス同様で世界中どこでも簡単に受け入れてもらえると思っていたのですが、スーツケースを開けて中に入っているもの一つ一つを説明しないといけませんでした。
一人当たり30分、27人のツアーだったので私を入れて28人×30分かかりました。さらに安息日だったので当直のスタッフが1人しかおらず、その上基本的に仕事(プレゼントを開けるのも仕事とみなされる)をしてはいけないので検査台への上げ下ろしや開け閉め、ものを取り出したりしまったりは全て旅行者側で行わなくてはなりません。検査員は座りっぱなしです。
昨夜寝ないでシナイ山を登って降り、税関はこの調子で昼食も食べれず、全員が無事イスラエル側に通されるまで、ゆうに10時間はかかりました。
その日は昼も夜も抜きでホテルへ向かうことに。
ところが安息日のためホテルも人がいません。フロントに置手紙があり、安息日の為自分でチェックインするようにとのことで、カギだけが置いてありました。
そして部屋までのエレベーターも各階止まりが設定されており、ボタンを押せなくなっています。なんとボタンを押すもの仕事だから禁止だそうです。当然ポーターもいませんし、ルームサービスもありませんから腹ペコのまま皆眠りにつきました。
翌日から安息日が解けて通常通りと思いきや、ちょうど1か月の断食が始まるということで、ホテルの食事もそれに合わせて質素極まりないものでした。気を取り直して観光に出れば有刺鉄線の張られた地雷地帯があちらこちらにあり、自分の判断で勝手にふらふらグループから外れないでください、とのガイドさんの警告。
また、宗教上の理由で、場所によってはうっかり人が入っては訴えられる可能性もあり、写真も控えるように、との事。
随所にあるアラブ人地区は速やかに通り抜けないと石を投げられたりひったくりにあったり、連れ去られたりする事もあるので小走りで走り抜けるようにとの指示でした。日本人は目立つので極力帽子やスカーフで頭と顔を隠すのが無難だそうでした。
3つの宗教の聖地イェルサレム
photo by David Shankbone
イスラエルはそのイメージ(中東の国だからイスラム教が主流で、モスクが沢山あって、、)とは大分違い、ユダヤ人が主に住みユダヤ教が主流ですが、首都イェルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教それぞれの聖地として主張されていますので、ユダヤ人の他にアラブ人やヨーロッパ系の人々が暮らしています。今はうまい具合にそれぞれを区画分けし、宗教を異にする者は他方の区画に足を踏み入れてはいけないという決まりになっているようです。
しかしながら、そんなことも知らずに無宗教の日本人がズカズカと聖地に入り、偶像崇拝禁止の人々を写真に収めたり、礼拝の時間に大声で話したり、髪の毛や肌を隠さずウロウロ買い物していたりするのですから反感を買うのは無理もありません。
全ての人がそうだとは限りませんが、実際に私も経験として、アラブ人に石を投げられたり、後ろから突然髪を引っ張られたりしましたし、ユダヤ人には体当りされたり足を踏みつけられたりしました。
イスラエルに行ってみたい?
photo by Emmanuel DYAN
日々こんなことが2週間近く続くのですから、私がお連れしたお客様もほとんどの方々は二度とイスラエルには来たくない、とおっしゃっていました。しかし中には、実際に聖地を見れたことで感激して涙が止まらない、という方もいらっしゃいました。
私も高校、大学とミッション系の学校に行っていたおかげで聖書をよく知っており、ああまさにモーセの時代から変わらない聖書の世界がそのまま残っているのだなあ、と、どちらかというと感激したのですが、それは予備知識があったお陰だと思います。
世界中には、気軽に訪れることが出来ない国が沢山ありますが、寧ろそういった国々の方が多いと思います。
無理して行く事は勧めるつもりはありませんが、もし訪れる機会があるのなら、是非事前に文化や人種や宗教について学習し、実際にその世界を体験しに行ってみて下さい。
想像もしなかった新しい世界が開けて、いろんな人々の思いが伝わってきて、綺麗なものを見て美味しいものを食べて楽しい体験をする時とは一味もふた味も違った世界が見られるでしょう。地球の裏側で生きている人たちの日常を感じて、感激出来ると思います。
但し、くれぐれも慎重に行動し、郷に入りては郷に従う、を実践して下さいね。