日本ではここだけ。展示会「北斎ー富士を超えてー」で奇才の晩年を覗く
日本

稀代の浮世絵師 葛飾北斎の晩年30年にスポットをあて、大英博物館との共同企画として開催されるこの展示会。大英博物館開催時には来場者が15万人を超え、連日長蛇の列が出来るほど大人気でした。

日本ではあべのハルカス美術館だけでの開催となります。日本一高いビルにある美術館で日本一高い山 富士山を見る。なんだか面白いですね。

肉筆画を中心に世界中から約200点の作品が集結。年代順ではなくテーマを設定して展示しているのもポイント。

「北斎大好き!」な方も「名前くらいは知って居る」という方も北斎の画業と人となりを濃密に描いたこの展示会、奇才とよばれた1人の画家の晩年をちょっと覗き見してみませんか。

稀代の浮世絵師 葛飾北斎ってこんな人


江戸時代に活躍した稀代の浮世絵師 葛飾北斎。代表作「富嶽三十六景」の神奈川沖波裏は「Great wave」として世界で最も知られている作品のひとつです。

6歳から絵を描き始め、20歳で画家デビューしたとされる北斎。生涯何度も雅号を変え、北斎を名乗り始めたのは30代後半の頃。

北斎とは極星(北)の書斎という意味だと言われています。70歳までに描いたものは取るに足らないと言った北斎。代表作「富嶽三十六景」は70歳を過ぎてから生み出されました。

エントランスには迫力の赤富士!


まずはエントランスの壁に描かれた赤富士(凱風快晴)がお出迎え。デカい。その迫力に心踊ります。

会場の天井にも富士山と龍が。木組みの格子があったりと会場全体が和風な北斎ワールドに。

「北斎らしからぬ」絵 ヨーロッパ風の風俗画


北斎らしからぬ洋風の作品群。無款ですが、モチーフを描く様式や技法から北斎の関わった作品とされています。その裏付けにもなった細部までの執拗な描き込み……。着物の柄の書き込みの細かい事。

学生時代にスクリーントーンが買えなくて、アミをすべて手描きで描いた友人がいましたが、通じるものがあるかもしれません(北斎の時代にスクリーントーンはないですけどね)。

日本の紙より吸水性が低いオランダの紙を使用したことで実現したと言われるこの細かさ。間近でじっくり楽しんでください。

繊細で美しい花鳥図と肉筆画帖


富嶽三十六景と同じ時代のものとされる花鳥図。北斎は富嶽三十六景のヒットにより様々な依頼を受けました。

その中の1つがこの花鳥図です。上下で一対とされ、刷りのトーンを合わすために2枚一緒に刷り、その後裁断しています。
美しいお花。なごみますね。勢いのある筆使いや繊細な葉の重なり、一緒に描かれている鳥や虫も愛嬌があって可愛いのです。

貴重な肉筆の画帖も。繊細な筆使いが美しいです。ガラスの向こうですが、割と近寄って見られるので、ぜひじっくり目に焼き付けてください。

ちなみにこの画帖はメトロポリタン美術館所蔵の品。世界中から集まってるんだなぁと実感します。

代表作「富嶽三十六景」


富嶽とは富士山のことを指します。文字通り富士山を題材とした風景浮世絵。会場には赤富士として有名な「凱風快晴」や Great waveとして海外でも人気のある「神奈川沖波裏」も展示されています。

人気の作品は何千枚もの数が刷られ、その中で作業が単純化されたため、初期の刷りと遅い頃の刷りでは印象が全然違うのだそう。会場には参考図として「赤富士」の刷りが並べてあるので、是非比べて見てください。

おんな北斎と呼ばれた娘


北斎に「美人画は俺よりうまい」と言わしめた北斎の三女 お栄(応為)。しかし肉筆画は少なく、10点も現存していません。今回はこの応為の作品も展示。

関羽開臂図は中国明代に書かれた小説 三国志演義の一場面を描いたもので、将軍関羽が腕の手術を受けながら酒を飲みながら囲碁を打っている様子が描かれています。

平然と囲碁を打つ関羽の周りで従者達が倒れそうになっているというなんともシュールな作品。従者達の「うへぇ……」とでもいいたげな表情が実に生き生きと描かれていてグロいけど面白い作品です。

美しい女性が衣を打つ様子が情緒的な「月下砧打ち美人図」は落款部分に削り落とそうとした後が残っています。

北斎と画風が似ている応為の作品を北斎作と偽って売ろうとした商人によるものとされていて、展示作品にはその傷もしっかり見てとれます。

また3通現存しているという応為自筆の手紙のうち1通が展示されています。こちらは赤絵の具の製法を説明した挿絵入りです。

世界初!?のペア展示 日本名将伝と大日本将軍記


版画になる前の下絵、版下絵も数多く展示されています。木版画の元となる版下絵は版画を作成する過程で失われ残らないもの。これが残っているということは版画そのものが完成していないということを意味しています。

こちらは挿絵の下絵(画稿)と版下絵がペアで残っているめずらしい例。ペアで展示されるのはこの展示が初めて。

所蔵しているボストン美術館でも並べて展示した事はなかったのだそうです。世界初! なんだか興奮しますね。

1週間限定の双幅での展示「竜」と「虎」


互いに視線を合わせる竜と虎。もともとは一対の作品であることが2005年に判明し、以来12年ぶりに双幅での展示が実現しました。

残念ながら10月12日(木)までの期間限定展示ですが、公式図録には見開きでババーン!と向かい合った形で収録されています。

展示後は「竜」はパリのギメ美術館へ、「虎」は東京の太田記念美術館へ別々に帰って行くのだと思うとなんだか切ないですね。

「虎」は期間限定展示ですが「竜」は会期中展示されます。晩年の彼の自画像とも言われる竜。意思を持って語りかけてくるような目がとても印象的です。じーっと眺めていると意識を持っていかれそう。

百まで生きる! 強い意思を落款に込める


歳を重ねるごとに画家としての技量が高まると考えていた北斎。100歳まで生きられれば神の領域に達すると信じていました。

数え88から90歳までの肉筆画には「百」の印が押されています。この百の印には「長生きして絵を描きたい」という北斎の願いが込められていたようです。

実際には90歳で亡くなった北斎が目指した神の領域。晩年のものとは思えない力強い作品群とともにこの展示室で感じてください。※会期中一部展示替えも行われます。

北斎-富士を超えて-
大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス美術館
前期は10月29日(日)まで、後期は11月1日(水)から19日(日)まで。
営業時間 月・土・日・祝/午前10時~午後6時、火~金/午前10時~午後8時
※いずれも入館は閉館の30分前まで
公式HPはこちら

この記事を書いた人

Sige.

Sige.トラベルライター

フリーのイラストレーター・デザイナー。 愛媛県出身。大阪市在住。 今は大阪在住ですが、学生時代から長く京都に住んでいたので、京都の情報も多数。 パンダと新幹線が好き。仕事柄、美術館やギャラリー巡りも大好物です。 京都・大阪など関西の情報を中心に面白い事・ものの情報をお届けします。

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