中国・新疆ウイグル自治区の「カシュガル(喀什)」は、中国でもっとも西にある都市です。
地図を見るとインドのニューデリーをまっすぐ北上した場所よりも西にあり、カシュガルの西はキルギスやタジキスタンという、ほとんど中央アジアと言ってもいいエリアです。
最果て都市のちょっと変わったモスク
▲パミール高原の湿原。雪山は6,000メートル級
山脈や高山地帯が連なるパミール高原や、そこをパキスタンへ抜けるカラコルムハイウェイも、ここカシュガルが玄関口となります。
北京から離れるほど住民に占める漢民族の割合が下がるので、カシュガルは新疆ウイグル自治区の中でもウイグル民族が多く住む街で「シルクロード色が濃い」「最果ての街」などといわれます。
ウイグル人はイスラム教を信じているので、人口100万人を超えるカシュガルには当然、大きなモスクがあります。でもここのモスク、ちょっと変わっていまして……。
黄色いタイルでできているんです!!
モスクといえば、多くは青いタイルか、土の色がそのまま表れたものが多数派。白い大理石製や、緑色タイルはちらほら。青色モスクの差し色として黄色タイルが使われることはありますが、全体が黄色のモスクには、なかなかお目にかかれません。
シルクロードマニアの私、今まで数知れないシルクロードの本や写真集、旅行記を読みましたが、なぜこのモスクが黄色いのか、その理由が記されているのを一度も見たことがありません。
というより、「黄色いことが珍しい」と書いたものすらほとんどなく、シルクロードに関わる人は当たり前のように「カシュガルのモスクは黄色い」と疑問にも思わないようです。謎だ……。
黄色いモスクの内と外
このモスクは「エイティガール・モスク」といい、お祈りの時間を避ければイスラム教徒以外でも見学可能です。見学料はたしか45元(≒750円、2018年6月現在)と、まあまあいいお値段です。
中に入ると、緑の多い爽やかな庭のようです。いちばん奥の祈りの場へ進みます。
祈りの部屋に入る時は、イスラム教の決まりなのでしょうか、右足から入るようにと係員に教えられます。
(記憶ちがいで足が逆だったらごめんなさい)
一日5回の祈りの時間でなくても、祈っている人もちらほら見られ、熱心な信仰心を感じます。
「さすが新疆ウイグル自治区で最大といわれる、エイティガール・モスクやわ~」と感心し、イスラム教徒でないこちらまで厳かな気分になっていました。
……が、外へ出れば打って変わって! モスク前の広場は、もう遊園地状態なのです。
ラクダに乗れます。20元なり。
他の人を見ていると、ちょっと乗って写真を撮るだけで終わりだったので、ラクダ屋のウイグル兄ちゃんに「ちゃんと歩いてくれるなら乗ってもいいけど」と必死の筆談で訴え、けっこうたっぷり歩いてもらい、黄色いモスクを背景に写真を撮ってもらいました。(→翌年の年賀状写真になりました!)
ラクダに加え、車を引かされるヤク(牛の仲間)も!
ヤクはチベットなど高地に生息する動物なので、灼熱のオアシス・カシュガルで仕事をさせられるのは、超かわいそうです。見てください、彼のぐったりとした顔を。
エイティガール・モスクには、近辺に棲む白い鳩がたくさん集い、それがひとつのシンボル的な風景になっていると聞いていたので、本当に鳩がモスクにいるのを見てテンションが上がります。
……とモスク前広場の端っこを見れば、鳩小屋が。仕込みだったのか(笑)。
他に馬もいましたし、ここはまるで動物園。
近所の子どもたちは、遺跡で絵ハガキやお土産を売るかのように、手にいっぱい持った風船を売っています。なんだか、子どもから夢を売られているよう。
写真を撮ってその場で現像してくれる写真屋さんもいます。エイティガール・モスクは新疆ウイグル自治区最大のモスク。江戸時代におけるお伊勢参りのように、ウイグル人にとっては「一生に一度は訪れたい」という場所なのでしょう。遠方から訪れたのか、記念撮影をする家族がいっぱいいました。
動物たち、風船、写真屋、食べ物の屋台……。
モスクが黄色いことも手伝って、おとぎ話に出てくるような何ともいえないメルヘンな空気が、モスク前広場には漂っています。
しかしメルヘンと同時に、何とか稼いでやろうという商売っ気も感じます。モスクのまわりはショッピングセンターもありましたし。
考えてみれば伊勢神宮だって今の時代も、すぐ近くの「おかげ横丁」が賑わっていますし、古くから栄えた場所はたいてい門前町や参道です。どこの世界でも、聖と俗は表裏一体なんだなあ。
うん、人間ってたくましい。
まだ、中世にタイムトリップできます
カシュガルもここ十数年で都市化がすすみ、以前を知る人が再訪すると「普通の大都市になっちゃって」と残念がります。私は初めてでしたが、2007年放送の『関口知宏の中国鉄道大紀行』を見て憧れていたので、やはり「もっと早く来られれば」と思ったことは否めません。
けれど、老城という旧市街の中だけは自動車の通行も制限され、中世の中央アジアの風情がとどめられています。観光向けに整備された感はありますが、じゅうぶん雰囲気を満喫できます。
羊のビフォーアフターはシュールですね。こうやって私たちは生きているんだと実感します。
カシュガルは職人の街といわれ、鍛冶や木工がさかんです。旧市街の中の宿で昼寝をしていると、まどろんでいるところに鍛冶のカンカンという澄んだ音が聞こえ、「ああ、カシュガルにいるんだな」と幸せな気分がこみ上げてきました。
ちょっと路地を入れば、思いもかけない場所に出たり、子どもたちに囲まれたり。
中国の最果て・カシュガルで、遊園地と化した俗っぽいモスクと、時が止まったような旧市街の対比を楽しんでください!
(記事の情報は、2016年夏時点のものです)