メキシコ中部地震から1ヶ月。現地から今、伝えたいこと。
メキシコ

2017年9月。2度の南部沖地震。そして中部地震。メキシコをマグニチュード6以上の地震が3回も襲った月は、今後も人々の記憶と歴史に残る月となるでしょう。

メキシコシティを襲った中部地震から1ヶ月。シティ在住の筆者が経験したあの日。そして今思うことを綴ります。

2017年9月19日午後1時14分

奇しくも85年のメキシコ地震の発生日にちなんだ、毎年恒例の大規模な避難訓練が行われたすぐ2時間後のメキシコシティをM7.1の地震が襲うとは、誰が想像していたでしょう。

筆者は高層ビルの30階で勤務しているため、相応の揺れは感じましたが、地上に避難した時には、まだまだ同僚達と冗談を言い合う気持ちの余裕もありました。

すぐに夫と連絡も取れ、彼も娘も無事、と聞いていたので、そういう意味でも切羽つまった気持ちはありませんでした。

地震直後のオフィス街の様子

ですが、その後、目の前のレフォルマ通りが封鎖され、空にはヘリコプターが旋回。救急車や消防車のサイレンが鳴り響き始めた時、初めて「これはただごとではない」と緊張が走りました。

オフィスビルへの立ち入りを禁止されて、公共交通も麻痺しているという情報の中、なすすべなく立ち尽くしていた午後3時過ぎのこと。

近くで働くお嬢さんと合流した同僚の1人が「車で送っていくから、早くはやく!」と声をかけてくれたので、ひとまずお言葉に甘えて車に乗せてもらうことになりました。今思うと、なんてラッキーだったか。

運よく車で出られたものの、街はカオス。多くの道が封鎖され、途中タンカで運ばれる人の姿も。目抜き通りも徒歩で帰宅する人々で行列ができており、車中のラジオからは緊張した声で被害状況が伝えられていました。

3時間ほどかけてようやく帰宅。家族の姿を見たらどっと疲れが出てしまいました。

つけっぱなしになっているTVには「これが今のメキシコシティなのか」という惨状が次々に映し出され、家族も自分も、そして家もすべてが無事だったことに感謝、それ以外言葉が見つかりませんでした。

念のため地震の翌日のみ自宅待機をさせてもらい、9/21はいつものように朝7時過ぎに家を出て会社へ。

幸い、筆者の生活圏内では大きな被害もなく、自分が動く範囲だけを見ると、いつもより交通量が少ないことくらいで、特段変わった部分は見当たりません。

それでも、TVやネットを見ると、倒壊したビルや悲鳴混じりの痛ましい映像ばかり。

これが今、自分の住んでいる街で起きていることなのか、と思うと、なにも被害がなくてありがたいと思うと同時に、えもいわれぬ不安な、そして後ろめたいような複雑な思いが生まれていました。

震災のサバイバーが抱く罪悪感とは

そんな感情を抱く中、メキシコ在住の心理士・秋田摩紀さんのコメントにとても救われました。ご本人の許可を得て、こちらでも公開させていただきます。

東日本大震災後、多くの人が震災うつを経験しました。不思議なことに主に被災地以外の人の方がなったといいます。

精神的不安(1日中憂うつ、眠れない、食欲がわかない、何も手につかない、普段楽しいことが楽しめない)が出始めている方は、ニュースにかぶりつきになるのをやめて、平常心に戻ってください。

「私は自分の生活をしていい」「私は今日を楽しんでいい」と言い聞かせましょう。不安に駆られて外を駈ける前に、夜ぐっすり眠ること、きちんと食べることを優先させましょう。

楽しむのに罪悪感を感じないでください。震災のサバイバーは衝動的ではなくて、年単位の長期的なケアを必要としています。そのためにも、今の自分を大切にしましょう。

彼女のコメントを読んだ後、引きこもり中の夫と娘を連れて、ショッピングモールに遊びに行くぞ!という気分になりました。私と違って、自宅待機が長引いていた2人には、早くもイライラや悪夢の影響が出始めていたためです。

ですが一方で「被災した建物のすぐ近くで外食するってどういう気持ち?」といった類のツイートが発せられていたという記事も。

東日本大震災の際にも「すべての娯楽は自粛すべき」といったムードが日本全体を覆ったとのことですが、それと同じ現象ですね。

摩紀さんのコメントにあるとおり、被災を免れた人間が、日常生活-娯楽を含め-を送ることは間違ったことではありません。

むしろ、被災を免れた私達が、外に出ることを止めて「街」の動き、「お金」の動きを止めてしまうことは、逆効果なのだろうと思います。

もちろん、天災を予測することは難しく、今後もまだまだ不安定な事象が起こる可能性があるのは事実です。

安全を確認しながら、そして今後に備えながらの生活を送ることは大事ですし、まして「日常」に戻るために、被災者の存在を忘れていい、ということが言いたいのではありません。

私にできる、息の長い復興支援とは

ですが、早くも震災後の経済的打撃が見えてきています。特に、観光業。

2016年メキシコへの旅行者は3,500万人を超え、アメリカの有力旅行雑誌のトップ・デスティネーションにメキシコの観光地が選ばれることもありました。

しかし今回の震災で、メキシコシティだけでなく、南部沖地震で影響を受けた州の観光ツアーやホテルを合わせれば、なんとキャンセル率は8割に上るのだとか。

世界に向けて報道された映像は「メキシコシティが一瞬にして壊滅した」という印象を与えるものだったと思います。確かに、被害の大きい地区もありましたが、決してメキシコシティ全体があのような被害を受けたわけではありません。

震災後数日間閉鎖されていたカテドラルも今は通常通り見学できます。(画像提供:観光ガイドMiki Sakai)

観光のメッカ、テオティワカンピラミッド。(画像提供:観光ガイドMiki Sakai)

メキシコ人ながら日本語観光ガイドとして働く友人の話では、地震直後にメキシコシティとその周辺を訪ねた日本人観光客の皆さんからは「地震後不安もあったけれど、メキシコに来てよかった」と言ってもらえているそうです。

また、世界地図上では南北の大きなアメリカ大陸に挟まれているため、小さく見えるメキシコですが、国土面積は日本の約5倍。すべての観光地が地震の影響を受けたわけではありません。


カラフルでフォトジェニックな街が乙女ゴコロをつかむグアナファト。(画像提供:Latin notes)

日本のメディアでも取り上げられることも多いこの州は一切影響なし。(画像提供:Latin notes)

そして、ラグジュアリーなビーチリゾートと、少し足を伸ばせば遺跡も楽しめてしまうカリブ海沿岸のカンクンやリビエラ・マヤも地震による影響はまったくありません。

被災しなかった私達ができる限り早く「普通」に戻り街の動きを止めないようにすることは、復興に必要なことの1つなのではないだろうか、そう強く感じます。

そして少しでも多く、メキシコの生き生きした表情を発信し、皆さんに「メキシコに行ってみたいな」と思っていただくこと。

それが在メキシコ8年目の私が普段お世話になっているこの国にできる、小さな恩返しだと思っています。

この記事を書いた人

Mariposa

Mariposa会社員、時々フリーライター

2010年よりメキシコシティ在住。現地月刊情報誌の編集長を経て、現在はフリーで活動中。時々めちゃくちゃなところもあるけれど、魅力の詰まった国・メキシコをお伝えしていきます。 メキシコに来たばかりのニューカマーも、メキシコ歴の長い永住組も、みんなが嬉しい、楽しい、美味しい、そんな情報を「メヒコぐらしの手帖」ブログ・ツイッター・Facebookにて発信中です。

    チャンネル

    チャンネルをもっと見る