フランスからの久々の一時帰国で、日本の「おもてなし」を体感してみた
フランス

フランスでの日本人気は、年々上がっていて、どんどん旅行者も増えています。

私の周りでは、出張で出掛けて気に入り、次にプライべートでパートナーや家族とのヴァカンスというパターンが目立つんですが、彼らは日本の清潔さと安全性、そして礼儀正しさに、まず感嘆するよう。

また、子連れでも躊躇しない大きな理由は、人の温かさや、食事や宿泊施設の種類豊富さ。自分達のスタイルやニーズ、予算に合うものを見つけられるからだそう。

『フランスで1番の広告は”クチコミ”』だといつも感じているんですが、日本ブームの背景にも、そうしたことを感じます。アニメやゲームの人気もモチロンあるんでしょうけど、日本に関心を持つ人が本当に増えました。

そんなフランス人たちから聞かされる日本、そして、私自身が一時帰国で感じていること、少し綴らせていただきますね。

満開の桜に人っ子一人居ない神社仏閣?

日本に行きたい・行こうと思っている人達が、まず参考にするのは、滞在経験者や駐在している人たちからの情報。そして、フランスで暮らしている日本人からのアドヴァイス。

でも、何しろ、まだまだ情報が豊富というわけでもないので、勘違いイメージもまだまだあります。

たとえば、桜。満開の桜の見事さはこちらのニュースでも報道されているほどだし、香りを扱うメーカーがCerisier(スリジエ=桜)をテーマにしたシリーズを出すようになって、ずいぶん知られています。なんと、食器洗いの大手洗剤メーカーの定番アイテムにも(我が家でも愛用しています)。

でも、桜を見に行ったフランス人からよく聞く「落胆したこと」は、「あんなに人が多すぎるなんて知らなかった」とか「神社の参拝に行列なんて」ということ。

桜は確かに見事だけど、写真を撮ろうとしても人だらけ……私達にはアタリマエのことですけど、桜や京都の神社仏閣のイメージ写真や映像だけを見てきたフランス人たちにとっては、想定外のこと。

人っ子一人いないまま広がる一面の菜の花やラヴェンダー畑のような景色を想像するんでしょうね。広告やパンフレットでのイメージとのギャップは、案外そこここにあります。

おもてなしの玄関口・空港でとまどうこと

ほかにも、Wifiはどこでもあると思われがち。欧州暮らしをしていると、(日本に比べて)通信費はびっくりするほど安価だし、欧州間では無料という契約も多々あるし、無料の公共Wifiはそこここにあるので。

テクノロジーが遥に進んでいる暮らしぶりの日本でなら、さぞかし便利な状況だろうと思えますよね。実際、私も空港や地下鉄のWifi表示を見て、ずっとそう思っていました。

でも今回、自分のフランスで使っている携帯で空港Wifiを試してみたところ……大勢人でごった返す空港ロビーでは、Wifiに接続出来ても、繋がらないんです。ぐるぐると空しく表示が廻るばかり。

空港での携帯やルーターの貸し出しや、空港内の郵便局やホテルなどで受け取れるSIMもあるけれど、慣れていないと戸惑うもの。今まで、フランス人達に相談されても「大丈夫! 空港にはWifiがあるのよ」と豪語してたのを猛省した瞬間でした。

さて、都内へ移動は、最近流行の格安高速バスを利用したところ、車内Wifiはなし。東京駅行きに着いて、迎えに出てくれているはずの友人に連絡しようとして……改めて気付いたのは、Wifiがないままなこと。そして、隣にはトイレに行きたがる14才の息子(リムジンにあると思っていたのにありませんでした)。

近くにコンビニの看板が見えたので、これで解決!と思ったのですが、トイレの利用は出来ないと貼ってあっただけでなく、電話をかけようとしたら……公衆電話なんてない!んです。そうですよね。イマドキは、誰も必要としてないんですから。

ところが、地獄に仏!(大げさじゃないですよ)。目の前には、家電量販店。トイレを貸して欲しいと頼んだら、快く案内してくれました。

一人一人が臨機応変な量販店、”一見さん”には不親切な直営店

スーツケース4個の大荷物と表で待ちながら、ふと店内に目をやると、1階は携帯とインターネットコーナー。

目で合図してたのに気付いてくれた女性販売員さんが来てくれたので、息子の携帯のSIMを替えたいので、本人にどれくらいの容量が必要か訊いて手続きして欲しいと伝えたら、快く案内してくれました。

私は、表で荷物番。息子が金額を言いに来てOKすると、お店の人が全部設定してくれました。荷物の移動が大変だから、支払いは、全部終えてからでいいと。救急で病院に運ばれても、支払いの手続きがすまないと診療してもらえない国で暮らす身としては、信じられない展開でした。

実は、事前にフランスから、いくつかの通信会社に問い合わせていたけれど、どこもSIMを販売するだけでそっけない対応でした。

実際、ソフトバンクのショップでも、店頭にいくつもSIMカードのパックがぶら下がっていたので設定や内容について訊ねたら「販売はしてますけど、内容は知りません」と。案内係だった男性に訊いても、「一応置いてますけど、内容は知らないんですよ」とのこと。

「外国人客はどうするんですか? オリンピックもあるのに」と言っても、「うちのメインは回線ごとのプランを売ることなので、これはただ置いてるだけです。欲しい人は中の英語の説明を読めば出来るはずですから」

そう、つまり、利益率の低いプリペイドSIMを売ることには興味ないわけです。本当にがっかり。ちなみに、量販店で設定してくれたのは全く同じタイプのもので、売り場の人がひとつひとつ息子に確認してくれながら設定してくれました。

「そんなの日本ではアタリマエ」と思う方もいるかも。でも、そうでもないんです。

道を訊きにくい東京、道を尋ねたら携帯を取り出して調べてくれた京都

ところで、私は東京育ちなので、基本的には「東京が首都で一番!」と(冗談交じりながらも、わりと本気で)フランス人たちに豪語して来たんですが、今回、14歳の息子を連れて京阪神を旅行してきて改めて知ったのは、東京は、やはり特殊な部分があるということ。

たとえば、電車に乗れば皆いっせいに(と表現したいほど大勢が)携帯をいじりだすし、道を歩きながらも携帯片手な人が多いのがアタリマエ。でも、京阪神では違いました。道でも乗り物でも、携帯をいじるよりおしゃべりしている人の方が多いんです。

だから、道に迷った時にも尋ねやすいんです。そうでなくても、立ち止まってきょろきょろしていると、話しかけてくれて……わからないと、携帯を取り出して検索してくれたり!も。同じ方向だからと、一緒に歩いてくださった方もいるし、雑談するうち、ついでにいろんなことを教えてくれたり。

実は、こういうエピソードは、日本へ個人旅行したフランス人たちから何度か聞いていたんですけど、それは彼らがいかにもガイジンだからで、日本人同士でそんな風にしてもらえるとは思っていませんでした。昼間ののんびりした時間ならいざ知らず、夕方のラッシュ時にわざわざ足を止めてくれた人もいました。

東京の方が変化が早かったり、地方からの人が多いから? いいえ、それは違うと思うんです。なんとなく、それが普通になっているだけ。

何しろ2年前、渋谷のハチ公前の交番で、午後ののんびりした時間帯に道を尋ねた時、若いお巡りさんたちは知らなくて、言われたセリフは「携帯持ってないんですか?」だったんですから。

係員は、ちょっとでも雑談したら叱られる日本

ところで、今回の京阪神の旅行のために、金券ショップで回数券のばら売りを買ったんですが、指定券にするため新宿東口のびゅうプラザに行ったときのこと。

新宿の緑の窓口は長蛇の列ですが、東口のそこは午後空いていると教わったので。案の定、人っ子一人居なくて、受付の女性に訊ねたら、「そこの機械で出来ますよ」。

……ええ、でも、それが今の私にはとてもハードルの高いタスクのひとつなんです。ようく考えれば出来るんでしょうけど、見慣れないボタンや画面たちに緊張しきり。

「はじめてですか?」と察しのいい彼女に、すがるように「ええ、一時帰国中なので、なにがなんだかすっかりわからなくて……」

「あ、じゃあ、お手伝いします」と快く始めてくれたその女性と、雑談しながら、作業すること数分。終えても、まだ他に入ってくる人もなく、ちょっと雑談を始めたその時、奥から年配の男性が出てきて、彼女は連れて行かれてしまいました。

誰も見ていなくても気を抜かない、というのは、日本でのいいところのひとつですが、私のおしゃべりのせいで彼女の考査に差し障ったらと思うと、なんともいたたまれない気持ちになりました。

フランスかぶれといわれてしまえばそれまでですけど、レジ係が顧客が台に乗せたセール品を見て「え? これどこにありました? 私も買っていこう」と気軽に言うような環境で暮らしていて、何年か前に、つい日本のスーパーでもレジ係の人に話しかけてしまい、「しまった!」と思ったら、笑顔で答えてもらえたんです。

以来、必ず挨拶し始めたら(空いているときだけですよ)、案外きさくに会話しながらレジ作業をしてくれる方が多くて、ちょっと楽しくなっていたこの頃なので、これはなんともショックな出来事でした。

臨機応変な老舗の機転、杓子定規なコンビニルール

コンビニも、「こんにちは」「こんばんは」の挨拶を交わせない店、なんとレジ手前の床に足形を記して並ばせるところがどんどん増えていて、なんだか以前より入りにくくなりましたね。知らなくて、レジすぐ前に並ぼうとすると、ものすごい剣幕で怒鳴られたり……。

一方で、こちらが確認電話をしなかったので予約が落ちていた初めての老舗の懐石では、お時間少々いただけるならと客室を用意して待たせてくれて、席を作ってくれました。

人と人との距離感やコミュニケーションの温度が、昔とは変わってきていると殺伐とした気持ちになっていたところへのこうした出来事は、まだまだ変わらない伝統への安心をくれます。京都は一見さんには冷たい印象だったのが、一転した今回の滞在です。

あんなに「不必要な笑顔が多い」と揶揄されていた日本の接客なのに、笑顔もコミュニケーションもどんどんなくなっている気がします。それは、私が外国暮らしだからかと思っていたけれど、多くの場所(特に東京)でそうなっているように感じられました。

オリンピック賛成も批判もそれぞれの思いがあると思うけれど、Free Wifiがとことん普及してくれてネットだけで移動がラクラクになるか、それより、そんなものないままでも、袖振り合うも他生の縁とばかりにおせっかいなひとが増えてくれたらと、心の底から願ってます。

そうそう、フランス人たちに1番よく訊かれるのが、たとえば(フランスでは、まず見かけない)ウォシュレット系トイレの使い方。未だに、日本語しか書かれていないところが多いんですよね。これは、全国チェーンのレストランのもの。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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