写真ってなんだろう?「トーマス・ルフ展」は事前知識なしでも、その問いが刺さり続ける場所。
日本

トーマス・ルフ展

今や誰もが「写真家」と言えてしまうくらいに、毎日1枚は写真をパシャリと撮る生活が一般的になってきたと言えると思います。スマートフォンが普及してからますますその傾向が強くなって、美しい風景やオシャレに盛られたパンケーキなんかに出会うたびに、思わずカメラを起動してパシャリとして、そして各種SNSに投稿したりする……そんな暮らしが当たり前の日常。
ではそんな日々量産される「写真」と、アートとして注目を浴びる「写真」では、いったい何が違うのだろう? 私が日々疑問に感じていたのはその点でした。そしてトーマス・ルフは、「写真」と「芸術」、そして「絵画」まで巻き込んで、写真表現とは何かということを探求し続けてきたアーティストのひとり。
そんな彼によって目の前に提示される「写真」に出会ったら……。私の疑問は解消されるのか? そして「写真」に対して新しい感情や考えを抱くことができるかもしれない。そんな期待を胸に、東京国立近代美術館で行われている「トーマス・ルフ展」へ足を運びました。 

事前知識なしでも、圧巻の作品達にそんなこと忘れてのめり込む

トーマス・ルフ展
THOMAS RUFF Portraits「トーマス・ルフ展」, 東京国立近代美術館

写真展や美術展に行くにあたっていつも気がかりなのが「事前知識は必要なのかどうか」ということ。でももしかしたら大半の展示では、そんなちっぽけなこと気にしなくていいのかもしれません。
今回の「トーマス・ルフ展」も然り。「芸術は肌で感じろ」とかいう言い回しもありますが、実際そうなのだと思います。
まず出迎えてくれるのが、本展示のポスターにもなっていたり、「トーマス・ルフといえば、これ」といえるくらいキャッチーな作品にもなっている「Portraits(ポートレート)」という作品群です。
この写真たち、デカイ。2メートルくらいの巨大なポートレート群と対峙するなんていう経験、ここ以外でできるのでしょうか。もしこれが手のひらサイズであれば、ただの履歴書に貼り付ける用の証明写真なのに。これを作品群として提示されるとき、私たちは「アートとしての写真」について考え始めることになります。
トーマス・ルフ展
THOMAS RUFF other Portraits「トーマス・ルフ展」, 東京国立近代美術館

ああだこうだと、写真に対してカッコイイこと言いたいみたいになっていますが、私自身は、写真に興味があってフルサイズのカメラやら古いフィルムカメラなんか買っちゃったりしているけれど、芸術についての知識が乏しくてどうしようもないというスペックの人間です。それでも勉強はしたくて、そして「いい写真」と呼べるものを撮ってみたくて、写真を撮るという行為を楽しみながら様々な展示にも足を運んで吸収しようとしている、そんな状態。
その程度の知識でも、グサグサと「写真とは」「芸術とは」という問いの矢を大量に浴びることができます。たぶん知識の量なんて正直関係ないのかもしれません。知識の多い人にも、ない人にも、平等に提示される、作家の写真表現の直球勝負。目の前にすると、まずは「感じる」しかできなくなる、作品群から放たれる重圧がここにはあります。
ちなみに、私は同じベッヒャー派とされる2013年の「アンドレアス・グルスキー展」にも足を運び、「写真」と「デジタル」の可能性について衝撃を受けた経験があります。もしアンドレアス・グルスキー展で同じく心を動かされた経験がある方であれば、本展示も足を運ぶべきです。アンドレアス・グルスキーとはまた違った方向から揺さぶられる経験ができ、その比較もまたひとつ面白さを帯びます。

「アート」と言える写真、とは何か?

トーマス・ルフ展
THOMAS RUFF Nights「トーマス・ルフ展」, 東京国立近代美術館

実際に目の前にしたら、一人ひとり受け止め方が違うと思います(それがアートであるということの証でもあるのですが)。
私が感じたのは、「アートとしての写真は、作家の意図と自分の感じ方が戦ったり協調したりして、考えさせられる余地を広大に感じる」ということでした。それが、日々のSNSの写真との違い……と言いたいけれど、トーマス・ルフだったら、いまのSNS時代のありふれた写真さえも、芸術に昇華してしまうんだろうなという気がして……思考をやめさせてはくれませんでした。実際、トーマス・ルフ展では、彼がインターネットで拾ってきた画像さえも、彼自身による加工を経て芸術作品として展示しているわけですから。

そもそも「写真」とはなにか。

となると、もはや「写真とはなにか」という問いまで降り掛かってくるのです。
トーマス・ルフ展
THOMAS RUFF ma.r.s.「トーマス・ルフ展」, 東京国立近代美術館

NASAの火星探査船が撮影した画像をもとに、トーマス・ルフの手によって彩色等の加工を施されたこれらの「風景写真」。これは私たちの口にする「写真」かどうか、もはや私には到底わかりません。これは「絵画」ではないのか? そう考え始めてしまったが最後、「写真」と「絵画」までをも巻き込む思考の渦に吸い込まれていくことになります。
トーマス・ルフ展
こんな疑問に次ぐ疑問が、作品群の前に立つたびに投げかけられる展示なのです。たぶん、見終わったあとには脳みそはもとより、全身の疲労を感じてしまっているでしょう。
美しいものに出会える、それもまた美術展示のひとつの感動ではあるのですが、こんな「思考実験の渦にとらわれる」のも、美術館で体験できる貴重な経験のうちのひとつではないでしょうか。

場所は東京国立近代美術館、会期は2016年8月30日(火)~11月13日(日)。その後、金沢21世紀美術館で2016年12月10日(土)~2017年3月12日(日)に開催予定です。
詳細はトーマス・ルフ展 / THOMAS RUFFでご確認ください。

この記事を書いた人

春菜 由香(コロポン)

春菜 由香(コロポン)TRIP'S編集長

87年北海道名寄市生まれ、旭川市育ち。名古屋大学文学部を卒業後、しばらくゲームを作ってました。Webメディアを作る上でも、とにかく面白いと心から思えるコンテンツだけを出していきたいです。ひがし北海道マニア(自称)、旅ラン専門家(フルマラソン経験あり)、写真家(名乗れるようになりたい)

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