鎌倉大仏や鶴岡八幡宮、小町通といった人気スポットに比べて地味な存在の北鎌倉ですが、訪れるたびに新たな魅力に気付く奥の深い場所です。
紅葉シーズンを前にして和の世界観を満喫できる北鎌倉の個性的寺院を今回ご紹介します。
北鎌倉の浄智寺で乃木坂46の撮影に遭遇
神社や寺院を巡って御朱印を頂くことを趣味としている私は頻繁に鎌倉に出かけていますが、北鎌倉の浄智寺で2人のアイドルが写真撮影を行っている場面に先日たまたま遭遇しました。
遠巻きにしか見ることができず最初は誰の撮影か分らなかったのですが、周囲のスタッフから「西野!」という声が飛んでおり、改めてよく見ると1人は乃木坂46の西野七瀬で、並んで立っていたのは齋藤飛鳥でした。
後で知ったのですがこれは19枚目シングルのジャケット写真の撮影で、同じ北鎌倉の建長寺でも行われていたようです。
メンバーが出演する薙刀をテーマにした映画の主題歌であることから和の世界観を重視し、映画のワンシーンとなるような撮影場所を選んだということですが、それなら北鎌倉はもってこいの場所だと思います。
「和の世界観」なら浄智寺が最適
19枚目シングルのWセンターの撮影が行われた浄智寺は、横須賀線と並行して走る幹線道路である鎌倉街道沿いに位置しています。駅からバス通りをしばらく歩いて角を曲がると、いきなり目の前に別世界が出現します。
これが浄智寺の惣門で、この先の山門との間の石段が西野七瀬と齋藤飛鳥の撮影ポイントとなりました。
白石麻衣、生田絵梨花、掘未央奈の3人が撮影されたのは境内にある書院「風堂」です。
浄智寺は鎌倉幕府の執権北条時宗が、若くして亡くなった弟を悼んで創建したもので、最盛期には現在の円覚寺に匹敵する規模を誇ったと言われています。
江戸時代になると鎌倉という都市の衰退と併せて衰え、ついには関東大震災により伽藍の大半が倒壊しました。現在の建物は昭和になって建て直されたものですが、和の世界観ということではこれ以上ふさわしい場所は思いつきません。
浄智寺では柔らかな筆跡の御朱印を頂けます。
神奈川県鎌倉市山ノ内1402
鎌倉時代の雰囲気を現在に伝える建長寺
もう1か所撮影が行われた建長寺もまた印象的な寺院です。
建長寺は盤石な権力基盤を確立した執権北条時頼が創建した禅宗の寺院ですが、鎌倉五山第一位(浄智寺は第四位)というだけあって周辺の寺院と全く規模が違います。
広大な敷地に総門・山門・仏殿・法堂・方丈といった伽藍が一直線に並ぶ「禅宗様式」が印象的です。
地震や火災によって創建当時の建物は失われ、現在我々が目にするのはほとんどが江戸時代に移築もしくは再建されたものですが、全体として鎌倉時代を代表する禅寺としての空気を感じることができます。
創建時の姿を現在まで保つ貴重な存在である国宝の梵鐘です。
衛藤美彩、生駒里奈、若月佑美、秋元真夏の4人が撮影された方丈は、本来は住職の生活の場でしたが現在ではイベントや研修の場となっています。1732年に建立された京都の般舟三昧院の建物を移築してきました。
井上小百合、伊藤万理華、桜井玲香、松村沙友里の4人が撮影場所は方丈横の水路です。ジャケ写のアングルを再現するには水路の中に入って下から撮影しなければ無理なようです。
選抜メンバーの残り6人が撮影されたのは最も奥にある半蔵坊に上がる階段です。
ここから続く石段を上りきった半蔵坊からは、建長寺の伽藍から遠く相模湾まで見渡すことができます。
建長寺では芸術的な御朱印を頂けます。
意外な見どころがある円覚寺
北鎌倉で和の世界観を味わうことが出来るのは浄智寺や建長寺だけではありません。鎌倉五山第二位で建長寺と並び鎌倉四大寺院の1つとされるのが円覚寺(えんがくじ)です。
元寇の際の戦没者を弔う目的で執権北条時宗によって創建され、度重なる火災や地震により衰えた時代もあったものの、江戸時代後期に伽藍が復興されました。
創建当初からのものである妙香池です。
国宝である舎利殿です。お釈迦様の歯牙をお祀りしています。
国宝「洪鐘」です。
円覚寺の境内には究極のお寺カフェと言われる「安寧」があります。水・木・金・第2土曜日だけ営業しており、美しい庭園を前にしたテーブルで庭園を鑑賞しながら抹茶やコーヒーを楽しむことができます。
私は円覚寺と浄妙寺が鎌倉で味わえる最高の抹茶だと思っています。
円覚寺の御朱印は力強さと美しさを兼ね備えています。
明月院の見どころはアジサイだけではない
北鎌倉の「アジサイ寺」として有名なのが明月院です。平安時代に創建された小さな寺院が数奇な運命をたどって現在まで存続しています。
アジサイの季節には平日朝の渋谷駅のように混雑する明月院ですが、その時期さえ外せば静かで美しい境内を落ち着いて楽しむことができます。
明月院の本堂には有名な「悟りの窓」があります。
案内がないので見落としがちになりますが、本堂の縁側の右端に置かれているユニセフの募金箱に300円募金すれば中に入ることが出来ます。
悟りや大宇宙を表しているという丸窓は大人が通り抜けることが出来るくらいの大きさで、その奥にある縁側から非公開の庭園を鑑賞できます。
明月院の御朱印は柔らかな書体が印象的です。
神奈川県鎌倉市山ノ内189
禅の美しさでミシュラン3ッ星の東慶寺
レストランのガイドブックで有名なミシュランは「ミシュラングリーンガイド」という旅のガイドブックも発行しています。
ここでは旅行者におススメの場所をおなじみの星の数でランク付けしているのですが、意外なことに鎌倉で3ツ星を獲得しているのは2か所しかありません。「竹寺」として知られる報国寺と北鎌倉の東慶寺です。
東慶寺は言わずと知れた「縁切り寺」で、ここに駆け込めば離婚できるという、女性にとっての最後の砦であり続けました。現在は尼寺としての歴史も閉じ、禅寺として歩んでいます。
敷地としてはそれ程広くなく、また華やかさは全くありません。
しかし全体的に「わび・さび・幽玄」といった禅の世界の美しさが感じられ、周囲と全く異なる雰囲気となっています。そういった日本独自の美が、日本を旅する外国人向けのガイドブックで評価されたのだと思います。
「花の寺」としても知られる東慶寺は1年を通して何かしらの花を楽しむことができます。
東慶寺では女性を守る寺院としての優しさが感じられる御朱印を頂けます。
超極太の御朱印でマニアに大人気の円応寺
冥界で亡者を裁く閻魔大王を始めとする10名の王を祀る円応寺は、鎌倉街道を進んで建長寺の前を抜け、トンネルに入る直前にあります。敷地内は撮影禁止なので写真はこれだけです。
閻魔大王像をご本尊としているにも関わらず「南無地蔵菩薩」という幟(のぼり)が立てられていますが、日本の仏教において閻魔大王は地蔵菩薩の化身であるとされているようです。悪人に対する際にお地蔵様では舐められるので閻魔大王に化けるのです。
円応寺は御朱印帳を破かんばかりにたっぷりと墨を含ませた超極太の御朱印で知られています。墨の量が多すぎて十の交差している部分の紙の表面がよじれてささくれ立つのが円応寺の御朱印のお約束です。
神奈川県鎌倉市山ノ内1543
鎌倉最大の穴場スポットである長寿寺
最後にご紹介するのが長寿寺です。公開されるのが春季(4月~6月)秋季(10月~11月)の金・土・日・祝だけという限定公開ということで、あまり多くの方には知られていないようです。
そのため近隣の明月院や建長寺が混雑しているような時であっても、長寿寺では静かに美しい庭園を鑑賞できます。
長寿寺はもともと足利尊氏が自ら屋敷としていた場所に1336年に創建したもので、境内には尊氏の遺髪を埋めた墓地があります。
長寿寺では「心静かに拝観のこと」という趣旨の貼り紙が至る所にあります。それだけ落ち着いて美を鑑賞することに特化した場所です。
しっかりと腰の据わった御朱印を頂きました。
神奈川県鎌倉市山ノ内1520
紅葉シーズンには北鎌倉に行ってみよう。
今回ご紹介した寺院は全て駅から徒歩15分以内というコンパクトな範囲にまとまっています。いよいよこれから紅葉のシーズンが本格化しますが、静かで落ち着いた北鎌倉で和の世界観に浸ってみてはいかがでしょうか。