伊豆半島の付け根にある港町、沼津市。最深部は水深2,500メートルある日本で最も深い湾、駿河湾の側にある町としても有名です。海の底は人間の未踏の地であり、駿河湾は日本の秘境というより、地球の秘境でもあります。
海の日という祝日を作るほど、水産資源の恩恵を受けている日本ですが、沼津市では深海魚という恵みを獲れることで有名です。代表的なもので、世界で最も大きな蟹のタカアシガニやサクラエビは駿河湾でしか漁業が行われていません。
今回はあまり馴染みがない深海魚を使ったハンバーガーを食べて、深海という特殊であり過酷な環境で生きている生物を展示した沼津港深海水族館で、深海魚を見てきました。
深海魚を食べた。
静岡県で漁獲量第2位という沼津港。駿河湾のおいしく珍しい海の幸を堪能でき、富士山を見れることもあって観光スポットとして有名です。観光施設として飲食街も整備され、新名所である港八十三番地にある「沼津バーガー」では、深海魚を使った深海魚バーガーが食べられるのです。
メギスを使った深海魚バーガー
水深200メートルよりも深いところを深海というそうですが、きちんと定義されているとは言い難いそうです。深海魚というと、やはりグロテスクという印象が強いです。特殊で過酷な環境に順応するため、人知を超えた容姿をしているという印象が強いのは確かで、こうハンバーガーの具としてフライにされてしまうと、マクドナルドのフィレオフィッシュと変わらないので、深海魚を食べているという感覚がありません。
具に使われたメギスは深海100m~400mの砂泥地に生息する魚です。光が届かない深海に適応した大きな目に、しゃくれた下あごが特徴的な魚で、新鮮な内は透明感のある魚です。白身の魚なので、フライにするととてもおいしいです。
知らないうちに深海魚を食べてました。
沼津市周辺でメギスと言われている魚は、ニギスやオキギス、カマスと呼ばれたりする魚で、太平洋と日本海の沿岸に生息しています。幅広く生息しているため多彩な呼び方があるようです。深海魚バーガーの具が「メギス」と知った時、煮つけや焼き魚で食べたことがあるなあと思いました。期待した割には馴染み深い魚だったため、知らないうちに深海魚を食べていたことに驚き、メギスと呼ぶ地域が北陸地方と沼津市周辺という限られた地域のみということにも驚きました。
著者の母はメギスの生産量の最も多い北陸出身だったためか、よく食卓に「メギス」として食卓にでており、アジやサバと等しく馴染み深いものでした。よって、メギスという限定的な地域しか使われない名詞が、いったい何があって北陸だけでなく沼津でも使われるようになったのか? そこが不思議で、今回最も驚いたことでした。
要するに、知らないうちに普段から深海魚を食べていた訳ですが、結構口にしているもので、マクドナルドのフィレオフィッシュも日本ではスケトウダラを使われていますが、他国ではホキやメルルーサという深海魚が使われています。調べてみると、ホキは他の会社のフィッシュバーガーやほっともっと等の白身フライで使われているようです。外食産業には深海魚は欠かせない食材になっています。
深海魚を見た
深海魚を食べられる沼津バーガーの隣に、「沼津港深海水族館」があります。沼津港は日本で一番深い駿河湾に面していることもあって、深海やその生物を専門に扱う水族館です。副題にシーラカンス・ミュージアムとあり、日本で唯一冷凍保存されたシーラカンスがあります。これは世界的にも珍しく、一見の価値があります。
世界的に珍しい駿河湾の海
最も深い湾である駿河湾には、世界でも珍しい生物の宝庫。タカアシガニもここの名物です。節足動物の中でも世界最大になり、カニ類の中でもシーラカンス同様、長年形態を変えずに生きてきた生物です。水深200メートルに生息し、最も盛んな漁場が駿河湾では観光名物となっています。
全体的に平べったく縦に泳ぐ面白い魚です。水槽の水面に集まっているので、駿河湾といっても浅いところにいるのかなと思ってしまいますが、水深25m~600mという幅広い水域に生息しており、夜になると水面近くに上がってくるという、環境適応がすばらしい魚です。また、さまざまな海域の沿岸地域でみられる魚ですが、食用には適さない模様。ぼんやりと見ていたい魚です。
ほかにも多彩な深海生物がいました。駿河湾について解説コーナーがあり、深海生物の捕獲や飼育についての解説などもあります。
大変珍しいシーラカンスの冷凍標本
1938年、南アフリカで発見されたシーラカンスは、恐竜とともに絶滅したと考えられていました。3億5000年前と同じ姿で発見されたときは、世界中が驚いたそうです。これがシーラカンスが生きた化石といわれる所以です。
発見された場所はアフリカとインドネシアですが、深海の環境は世界的に等しい環境にあるため、駿河湾にシーラカンスがいないとも言い切れないそうです。そして、ワシントン条約上、商業ベースでのシーラカンスの展示は認められていません。しかし、ここの個体は特別な許可が下りたものになっています。
アフリカのコモロ諸島で撮影された、シーラカンスの遊泳動画を流したり、CTスキャンによる立体映像もあり見どころ満載です。
深い海のへんてこな生き物たち
深海という環境に身を置く生き物たちは、その過酷な状況に適応するために進化をしてきました。一見するとグロテスクですが、深海で生きていく上ではとても理に叶った体なのでしょう。未だにわからないことが多い深海。そこには人間の想像を超える生物たちがたくさん住んでいます。
よって、ここでは深海生物の新種や希少な生物を展示しているコーナーがあり、初公開となる生物も多くいます。深海生物たちは先にも書いた特殊な環境に身を置いていたため、飼育が大変難しく、展示には高度な技術と専門の工夫が必要になります。しかし、不明点が多く生きた深海生物を観察できるのは貴重なことなのかもしれません。
不思議なサメたちの標本
世界一のろいサメといわれるオンデンザメ。かなり大きくなるサメで、体長6メートルから7メートルにもなる深海のサメです。なんでも食べるため、胃の中から長靴も出てきたことも。沼津港深海水族館でが2015年に2メートル未満の小型のオンデンザメを、生きた状態で世界で初めて展示に成功しました。しかし、飼育が難しいため展示から7日後に死んでしまいました。
シン・ゴジラのモデルになったといわれている、深海ザメラブカ。筒状の体をしていて、赤い独特なえらが6つもあり、顔の輪郭も蛇のようで、サメ=ジョーズと思い込んでラブカを見ると、サメらしくない容姿をしています。目には鋭さはなく、暗闇によって退化してしまった感じを受けます。ここでは何回かラブカの生体展示を行っていますが、飼育が難しいため一晩で死んでしまったそうです。
いろんな種類のサメの歯です。サメといってもいろんな歯の形があり、鋭さのあるもの、臼歯のような平べったい歯があったりと、見ていて面白いです。
深海生物は飼育が難しいため、生体展示がなかなかできません。しかし、ここではプラスティネーション標本やはく製といった、工夫を凝らした展示を行っています。
美しい透明標本
芸術作品のような透明標本が壁一面に展示されています。標本が芸術品のように見えるのは、生物そのもの体が、美しいからかもしれません。
ミュージアムショップでお土産を買う
特徴的な深海生物のキャラクターグッズを扱っています。ちょっとおどろおどろしい容姿も、ぬいぐるみになってしまうと可愛らしさが出るのが不思議です。ミュージアムショップでは、シーラカンスとダイオウグソクムシの茶こしが人気で、シーラカンスの方を購入しました。グソクムシの方はリアル過ぎて、正直ゴキブリがコップの中にいるようにしか見えないので、購入を見送りました。
見てから食べたほうがよかった。
沼津港新開水族館は2011年に開業し、沼津港の食材を使った飲食店などが集まった「港八十三番地」という比較的新しくできた、観光スポット内にあります。そこには沼津バーガーや、海鮮丼屋さん、深海魚が食べられるお寿司屋さんがあります。
水族館のパンフレットを見ていると、「水族館のレシートを提示すると10%OFF」という、とってもお得な割引がありましたが、ご存知の通り食べてから見てしまったため、大変損をした気分になりました。しかも、メギスが展示されていなかったため、写真が撮れず……。
しかし、水族館自体は大変面白く、展示物も充実していました。大きいとは絶対に言えない水族館ですが、人がいっぱいで深海というミステリアスな世界を知ろうと、じっくりと解説を読む人達が多かった印象があります。
メンダコという珍しい深海生物の生態展示をしていましたが、撮影が禁止されていました。そういうこともあったり、生態展示は捕獲状況によってかわるので、実際に訪れることをお勧めします。