ニュージーランドで一番景色のよいドライブコースはどこかと聞かれたら、僕は迷わずある道を思い浮かべます。その道の名は、 『Road to Paradise』。
ロード・トゥ・パラダイス……なんだか小説か映画みたいな名前ですが、これがニュージーランドには実在するんです。しかも、名前負けしない見事な景色の連続! ゴールにあるパラダイスとはいったいどんな場所なんでしょうか。さっそく、見に行ってみましょう。
ロード・トゥ・パラダイスへ
▲クイーンズタウン
ニュージーランドの南島にある一大観光都市・クイーンズタウン。「女王が住むにふさわしい」と評されるこの街は見どころが多く、周辺の観光の拠点ともなっているため、NZ観光に訪れる人の多くが足を運ぶ街です。
今回ご紹介するロード・トゥ・パラダイスは、そんなクイーンズタウンからお隣のグレノーキーという、小さな小さな田舎町へ向かう道中に名づけられた名前です。所要時間は片道わずか1時間ほど。そんな何もなさそうな田舎道に、大そうな名前がついている理由はいったい何だろう……!? 実際に自分の目で確かめるべく、グレノーキーへの日帰り旅行へ出かけてみることにしました。
ターコイズ・ブルーの湖畔を走る
クイーンズタウンに到着し、さっそくレンタカーを借りて準備万端。いざ、ロード・トゥ・パラダイスへ! グレノーキーへの1時間ほどの旅路に出発です。
……と思いきや、僕の運転する車は10分たっても1キロも進めず、ほとんど前に進めません。ロード・トゥ・パラダイスの道路は舗装されていてきれいですし、交通量も渋滞どころか皆無です。それなのになぜ進めないかというと、
▲ロード・トゥ・パラダイス
▲車窓の風景がきれいすぎて、ついつい停車してしまう。ロード・トゥ・パラダイス
景色がすごすぎて、駐車スペースがある度に停まってしまうから……。コーナーを曲がる度に絶景が広がり、停まらずにはいられません。クイーンズタウンはワティプ湖という大きな湖に面した街ですが、実はグレノーキーは同じ湖のちょうど上流に位置しています。つまり、道中はすべてレイクビュー! まだ春先だったので、背後にそびえる3,000メートル級の山々はまだたんまりと雪を抱いていて、湖と青空とのコントラストが見事です。
途中にある峠の崖っぷちに車を停めて外に出てみると、音のない風景にしばし見入ってしまいました。湖からそそり立つ山々と雲が水面に映る大パノラマ。心洗われるとはこのことなんでしょう、景色をみて涙が出そうになるほどです。
▲ロード・トゥ・パラダイスの絶景ポイント
湖の水も、雪解け水がそのまま貯まったような湖なので透明度は折り紙つき。湖におりて岸辺を散策すると、湖面に映る雪山がまた美しく、何度も飽きることなくカメラを構えてしまいます。
▲ワティプ湖の湖畔を歩く
そんな素晴らしい景色に見とれながらドライブすること約1時間。いよいよ目的地のグレノーキーに到着しました。人々で賑わうクイーンズタウンとは打って変わって、カフェが何件か立ち並ぶだけの、町とも呼べないような閑静な集落です。そびえるような山々に囲まれているからか、何か開拓時代の雰囲気すら感じさせてくれます。
未舗装の道の先、「パラダイス」へ
さて、そんなグレノーキーのカフェで休憩をとっているときでした。店員さんがおかしなことを聞いてくるのです。
「ここからどこに向かうの?」
どこって、ここグレノーキーがロード・トゥ・パラダイスのゴールでしょう? と思って聞いてみると、どうやらこの先も未舗装ながら道が続いているらしく、しかも、その先にある地名こそが『パラダイス』!
日本語ガイドブックなどのロード・トゥ・パラダイスの紹介文には「グレノーキーまで景色が素晴らしい!」というような言葉が躍っていますが、どうやらロード・トゥ・パラダイスの本当のゴールはその先、本物のパラダイスのようです。
さっそく未舗装の道路を進み、苔むしたブナの森を抜けると、山の谷間に広がる広々とした牧草地が見えてきました。360度を雪山に囲まれた牧草地に、何百頭もの羊が歩いています。聞こえるのは羊の鳴き声と風の音。未舗装の一本道にはほとんど車の往来はありません。これこそまさに、だれもがニュージーランドと聞いてイメージするような牧歌的な風景! 100年前の風景と言われてもすんなり信じてしまいそうです。未だににこんな景色が見られる場所があったなんて……。楽園のような心地よさに、しばらく立ち止まってしまいました。
▲ほんとにあった、『パラダイス』
▲パラダイスの風景。雪山と牧草地だけの景色がすごい。道の先には羊が歩いている。
▲パラダイスの風景。これぞ、クラシックなニュージーランドの風景
パラダイスの名の由来は……
あとで調べたところによると、パラダイスという地名は、まさしくその美しすぎる風景からいつしか呼ばれるようになったそうです。地図もたいして無かった開拓の時代から、きっと口々に「あそこにはパラダイスがある」なんて語り継がれてきたんでしょうね。それが地名となった今でも、風景は変わらずそこにあり続けている……パラダイスはニュージーランドの歴史がそのままパックされたような場所なんでしょう。
南島にはたくさんの観光スポットがありますが、クイーンズタウンからグレノーキー、そしてその先にひっそりと広がるパラダイスを繋ぐ「ロード・トゥ・パラダイス」ほど、クラシックなニュージーランドの風景を見せてくれる場所はありません。あえて地図上では“何もない”ような土地へ出かけてみるというのも、新たな発見があって面白い旅になるのかも……しれませんね。