横須賀沖に浮かぶ無人島・猿島。
夏場は多くの観光客で賑わうこの島ですが、冬の平日、しかも朝一番に訪れると、その印象は大きく変わります。
苔むした煉瓦造りの要塞跡、自然に包み込まれるような細い通路、そして音の少ない静寂に満ちた空間。そこには、観光地というよりも、まるでスタジオジブリの名作『天空の城ラピュタ』を思わせる世界観が広がっていました。
本記事では、賑わいとは距離を置いた冬の平日朝の猿島を舞台に、日帰りで味わえる非日常の時間を取材記録としてお伝えします。
三笠ターミナルから黒船フェリーで猿島へ!
今回の旅は、横須賀中央駅から徒歩約15分の三笠ターミナルから始まります。

運賃は猿島公園入園料と乗船料(往復)で計2,000円。ただし、2026年2月からはシーズンに応じて2,100円から2,500円に変動します。

ここから黒船を模したフェリーに乗り、無人島・猿島へ向かいます。この日の朝一番のフェリーに乗り込んだ乗客は、私を含めてわずか5人だけでした。


黒船フェリーは2024年にできたばかり。2024年グッドデザイン賞ベスト100を受賞していて、内装にも相当のこだわりが伺えます。

船に揺られる時間は決して長くありませんが、本土から少しずつ距離が生まれることで、気持ちが切り替わっていくのを感じます。日帰りとはいえ、これから“別の時間”に足を踏み入れるような感覚がありました。
冬の平日朝イチは「無人」を楽しめる

猿島に到着してまず驚かされるのは、人の少なさです。夏や週末の賑わいを知っている方であれば、その落差に戸惑うかもしれません。


冬の平日、しかも朝一番の時間帯は、島全体が静まり返っており、視界に入るのは自然と遺構ばかり。足音や風の音が必要以上に響き、観光地でありながら“無人島”であることを強く意識させられます。この時間帯だからこそ、猿島本来の空気に触れられるように感じました。


観光地では通常、「どこを見るか」「次にどこへ向かうか」を意識しがちですが、この時間帯の猿島では、その必要がほとんどありません。立ち止まっても、引き返しても、誰かの邪魔になることがない。何かを“見に行く”というよりも、島の中をただ漂っている感覚に近い時間でした。冬の平日朝の猿島は、何かを足す旅ではなく、余計なものが削ぎ落とされていく旅だと感じます。
苔むした要塞跡と、ラピュタ的世界観
猿島の風景がどこか印象に残るのは、単に苔むした遺構が美しいからではありません。


猿島に残る煉瓦造りの要塞跡は、もともと明治時代から第二次世界大戦前まで、東京湾の首都防衛を担っていた軍事施設です。島内には対艦・対空用の砲台が設けられ、外敵の侵入を防ぐ役割を果たしていました。

その要塞跡が、いまでは苔に覆われ、自然の一部のように島の風景に溶け込んでいます。冬の平日朝という静かな時間帯に歩いていると、役目を終えた防衛施設が、ゆっくりと自然に回収されていく過程を目の当たりにしているようでした。

こうした風景を前にすると、天空の城ラピュタを思い浮かべてしまいます。ラピュタもまた、美しい城であると同時に、天空の要塞としての機能を備えた場所でした。

猿島とラピュタに共通しているのは、「かつて守るために存在した場所が、役割を失い、自然に回収されていく過程」にあります。人の手で築かれた防衛の構造物が、長い年月を経て風景へと溶け込んでいく。その過程を、猿島では現実の時間軸で体験することができます。

ラピュタ的だと感じてしまうのは、見た目の問題というよりも、要塞という思想そのものが静かに風化していく様子を目の当たりにしているからなのかもしれません。
帰りはお隣の「よこすかポートマーケット」でランチ
猿島で静かな時間を過ごしたあとは、再びフェリーで本土へ戻ります。


上陸地点となる三笠ターミナルには売店があり、横須賀ならではのお土産を購入することができます。短時間の滞在でも立ち寄りやすく、旅の余韻を持ち帰るにはちょうどいい場所です。


そこから歩いてすぐの場所にあるのが、よこすかポートマーケットです。猿島とは対照的に、人の気配や活気が感じられる空間で、ランチタイムには多くの人で賑わっています。島で張りつめていた感覚が、食事を通してゆっくりとほどけていくのが分かりました。

今回は、横須賀のご当地グルメとして知られる「ヨコスカネイビーバーガー」を提供する老舗店、HONEY BEEのバーガーを選びました。アメリカンサイズです!
無人島で過ごした静寂のあとに、港町らしい賑わいの中に戻る。この落差もまた、今回の旅の一部です。猿島単体で完結させるのではなく、三笠ターミナルとポートマーケットを含めて巡ることで、非日常から日常へと自然に着地できる、バランスの取れた日帰り旅になりました。
まとめ

冬の平日、しかも朝一番に訪れる猿島は、一般的な観光地としての顔をほとんど見せません。人の気配が薄れ、音が削ぎ落とされた島内では、苔むした要塞跡や自然に包まれた通路が、より鮮明に立ち上がってきます。そこに流れているのは、「見るべき名所」を巡る旅とは異なる、ただその場に身を置くための時間です。
明治期から首都防衛を担ってきた要塞という歴史を知ったうえで歩く猿島は、かつて守るために存在した場所が、役割を終え、静かに風景へと還っていく過程を体感できる場所でもあります。その姿が『天空の城ラピュタ』を想起させるのは、見た目の類似というよりも、要塞という思想が時間の中で風化していく様子を目の当たりにしているからなのかもしれません。
猿島を含めて横須賀市は、都内から気軽にアクセスでき、半日あれば十分に回ることができます。早起きした休日や、少しだけ時間に余裕のある平日でも成立する旅先です。
遠出をしなくても、いつもと違う時間を過ごしたい。そんなときは冬の猿島に行ってみてはいかがでしょうか。
●猿島
●よこすかポートマーケット




