現在、この夏世界文化遺産に指定された国立西洋美術館で、ルネサンス期の画家クラーナハの展覧会が行われていることはご存知ですか? この度、私が実際に見に行ってこの展覧会の魅力を調べてきました。
上野駅の公園口を出てすぐのところにある国立西洋美術館、心なしか以前訪れた時よりも来客者が多い気がしました。さっそく入り口でチケットを購入して入場。特設展は地下にあるようです。
地下に降りると程よい照明と内装とともにクラーナハ親子と彼らと同時期の芸術家による作品の数々が並べられていました。展覧作品は撮影禁止なので、今回は展覧会の冊子の写真を見ながらクラーナハ展を振り返ろうと思います。
クラーナハとは?
クラーナハの作品について紹介する前に、まずクラーナハを知らない方々のために彼について少し説明します。ルーカス・クラーナハはルネサンス期のドイツの画家であり、同名の息子も同様に父の画風を引き継いでいます。芸術家の家系に生まれたクラーナハは、ヴィッテンベルクに工房を構え、ザクセン選帝侯(宗教改革時にルターをかくまった王)の宮廷画家として多くの宗教画や肖像画を残しました。彼の生み出した画風は、ピカソをはじめとした後世の多くの画家に受け継がれています。
クラーナハの作品って?
では本題に入りたいと思います。ここでは私の印象に残ったクラーナハ展の展示作品の一部を紹介します。
肖像画家としてのクラーナハ
■神聖ローマ皇帝カール五世
当時写真など存在するわけもなく、肖像画こそが人の姿を後に残しておくための唯一の手段でした。そのためクラーナハも多くの肖像画を残しているようです。これは彼が1533年にほかのカール三世の肖像画などをもとに描いた作品です。この斜めを向いて口を結んだ構図はほかのクラーナハの肖像画にも共通していました。私が驚いたのは、ザクセン選帝侯に仕えたクラーナハがなぜプロテスタントを弾圧したカール五世を描いたのか、という点です。不思議ですね。
版画家としてのクラーナハ
■マグダラのマリアの法悦
クラーナハは神話をもとにした作品を多く描いていて、この作品もその一つです。これは娼婦として生きたことを償うために荒れ地で隠遁していた女性が天使たちによって天上へ導かれている場面が描かれています。話の面白さはさておき中心部の細かな線は圧巻です。クラーナハは自らの工房でこうした版画を大量に生産して利益を上げていたそうです。
クラーナハのエロス
■ユスティティア
冊子の表紙にもなっているこの作品のように、美しい女性の裸体像をクラーナハのイメージとして持っている人も少なくないのではないでしょうか。彼は中世の抑圧的な表現法とは違ってつややかに裸体を描き、また、古代の理想化された肉体の姿とも違って現実の女性の裸体に近いゆがんだ体を描きました。そうした表現法のせいでしょうか、この作品には不思議な魅力を感じ、長い時間目を引き付けられました。
二律背反とクラーナハ
■不釣り合いなカップル
これは若くて美しい女性と醜い金持ちの年寄りが寄り添っている姿を描いた作品で、クラーナハはこのような作品を多く残しています。指輪を付ける動作と女性の表情から女性のあざとい目的が明確に伝わってきます。クラーナハはこのように美しい女性の姿を女性に騙された男性の悲劇の中に描くことを多くしており、女性の美しさと女性の招く不幸という二律背反はクラーナハの1つの主題とされています。
ぜひ美術館へ
このように書いてきましたけれど、読み返してみるとやはり文章で絵画の素晴らしさを伝えるのは難しいなと感じます。クラーナハ展の感動はこんなもんじゃない。ですから、どうか少しでも興味を持った方はぜひ国立西洋美術館を訪れて実際に絵を見てください。