マチスやピカソ、モネを見出した蒐集家「シチューキン」。100年ぶりに集結したコレクションを見に行きました
フランス

ルイ・ヴィトン財団が、パリの西側に広がるブローニュの森の一角に美術館(La Fondation Louis Vuitton : 8 Avenue du Mahatma Gandhi, 75116 Paris)を完成させたのは2年前の2014年秋のこと。常設展としてのコレクションの数々はもとより、建築家フランク・ゲーリー氏によるモダンで洗練された設計、そして、屋上庭園の素晴らしさは、あっという間に話題になり、当面の予約チケットはすぐに完売。
「もう行った」という人達は、誰もが目を輝かせて話をしてくるのが特長で、森の中のガラス使いの美術館を愉しむなら、お天気のいい季節の日中というイメージがあったんですが、冬の日の土砂降りの中を出かけたとしても、きっと後悔しないはず!とお薦めしたいのが、今、期間限定展示中のIcônes de l’art moderne. La collection Chtchoukine(近代美術のアイコン-シチューキン・コレクション)。

La collection Chtchoukine――シチューキン氏のコレクションって?

……といっても、Chtchoukine(シチューキン)という名前、馴染みがないですよね。フランスで、アート好きな人たちの間ではよく知られている、ロシアの美術品蒐集家セルゲイ・シチューキン(1854年-1936年)氏は、マチスやピカソ、モネ、セザンヌ、そして、ゴーギャンなどが、まだ今のようには評価されていなかった時代にその価値を見出し、人の意見に左右されずに蒐集したことでも知られます。
その膨大なコレクションが、今回、4月から始まった、2016-17 l’année franco-russe du tourisme culturel(仏露文化ツーリズム年)を機会に、初めて一堂に会する運びになった、素晴らしい企画展なんです。
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具体的には、どんな作品たち? たぶん、いつか見たことのあるもの……の本物!がそこここに、です。

実は、私も最近まできちんとは知らなかったんですが、私たちが教科書で学んだり、ポスターやカレンダー、絵葉書などでよく見かけて馴染みのある近代名画の多くは、ロシア国立のエルミタージュ美術館、プーシキン美術館、ギャラリー・トレティアトヴなどに分所蔵されているそうです。
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どうして、ロシア? いえ、厳密には、ロシアの各美術館やギャラリーだけではなくて、海の向こうのMOMAニューヨーク近代美術館に所蔵されている作品もあるそうなので、ある意味では散り散りになってしまったこのコレクションたち。今回集められた名画や彫像など、上に書いた5人の他にも、ドガ、ルノワール、トゥールーズ・ロートレック、ルソー、ドラン、ゴッホなどなど、作品総数は130点にも上るそう。その他に、ロシアのアバンギャルド作品30点も加わっての公開です。
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しかも、この至近でも鑑賞できる距離感。フランスの多くの美術館がそうなように、柵やショーケースで遮られていないのは、なんとも心地いい空間ですよね。
歩くペース、立ち止まるリズムは人それぞれ。贔屓の画家、好きな作品は、観る人ごとに違うもの。すーっと流れるように歩いていく人がいるかと思うと、誰か別のひとがじっと佇み、動かなくなったり……そこここで、時折、感嘆のため息が聞こえます。
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今回こうしてひとつの場所に集められたのは、1948年以来のことだそうで、本当に貴重な機会。元々は、セルゲイ・シチューキン氏が集めたこの美術品たちを手放すことになったのは、彼が望んでそうしたわけではなくて、歴史の波にのまれたせい……(これも、歴史の教科書で習ったときには、遠い世界の夢物語みたいだった)1917年に勃発したロシア革命で、家も財産もすべて没収されてしまったからなんです。
そして、今、約100年後の私達の目の前に、ようやくこうして再び……私が、「夕方5時過ぎにシャトルバスに飛び乗ってでも行きたい!」と思った理由がおわかりいただけましたか?

行き方は簡単。片道たったの1ユーロ!の直通のシャトルバスで十数分。

パリの街の中心ではないものの、凱旋門のあるシャルル・ド・ゴール広場から、直通のNavettes(ナヴェット)と呼ばれるシャトルバスが10~15分間隔で運行しているので、行くのには全く躊躇いりません。時期ごとに運行時間は違うものの、ホームページには日本語での案内も出ています。小さな電気式で、片道1ユーロ。
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ただ、確実に予定通りに鑑賞したければ、チケットの事前予約購入をお忘れなく。それでも、入館するまでに15分ほどは並びましたから。
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こちらが外観。午後5時半過ぎには、もうすっかり薄闇のパリ・ブローニュですが……
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正面に燦然と輝くLVマークと、人々のちょっとしたさざめきは、森の中とは思えませんね。
せっかくなので、屋上テラスからの眺めも。遠く輝く高層ビルたちは、パリ市北側に位置する、新都心とも呼ばれるラ・デファンス地区です。
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さて、閉館して7分後が最終シャトル。どうぞご留意を。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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