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南仏プロヴァンスのクリスマスの習慣 「希望の小麦」がとっても素敵!

希望の小麦

南仏プロヴァンスの、“冬の小麦の種蒔き”をご存知ですか? 昔からこの地方に伝わるクリスマスの祝い方のひとつで、12月4日に多くの家庭で種蒔きをする風習があるんです。今回はそんな、プロヴァンスの素敵なクリスマスの習慣をご紹介します。

どんな風に種を蒔くの?

種蒔きといっても土壌にではなく、深皿に水を含ませたコットンを敷いて、その上に小麦をぱらぱらと蒔いて育てる水栽培。
希望の小麦

翌朝にはもう発芽していて、毎日ぐんぐん伸びて行く速さは想像以上。そうして約3週間後、24日のクリスマス・イヴを迎える頃には10数センチの凛とした姿になって、家族や親しい人たちと過ごすテーブルを飾ります。南仏の13デセールと呼ばれる伝統菓子たちと共に愛され、今に続いている南仏独特の習慣です。
パリではほとんど知られていなくて、夫もマルセイユで暮らし始めて初めて目にしたそう。気候の違いのせいもあるけれど、こんな風に北と南、東と西で、行事や食べ物・習慣などなど違いがあるのもフランスの面白いところです。

パンや雑誌や飲み物と一緒にレジで、思いつきで買えます

さてこの小麦、11月になるともうすでにあちこちで売られています。パン屋さんやKiosque(キオスク)、Tabac(タバ)と呼ばれる新聞や雑誌とタバコを扱う店のレジ脇に、小さな袋に入れられて置かれていて、たいていが1ユーロ。

とくに説明書きも何もなくて、無造作にBlé小麦1ユーロと手書きの札が添えられている程度。「もう知ってるでしょう?」といわんばかりに、何も書いていないところも。「それぐらいなら、おまけで無料で配ってくれたらいいのに」と思いたくなるでしょう? でも、『幸せを願って育てる小麦は、自分でお金を払ってこそ』なようで……神社仏閣でのお賽銭みたいな感覚かも。

小麦の収益でチャリティを運営している団体、Le Blé de l’espérance

フランスでは、様々な慈善・福祉団体がいろんな対象・形のチャリティ活動をしているんですが、独自のパッケージ入りの小麦を販売し、その収益で病気の子ども達を支援する活動をしているのが、Le Blé de l’espérance(ル・ブレ・ド・レスペランス)という団体。貯金箱のような箱に、Le Blé de l’espéranceのマークが目印。種が入っている袋にも同じ印刷があります。

希望の小麦

我が家でも、いつも買っているのはここの小麦。マルセイユのヴューポー港や他の街々でのクリスマスマルシェにも毎年スタンドが出ます。この頃では、パン屋さんでもこんな風に専用の箱でレジ脇に置いてあります。まだひと月以上あるけれど、ダブることになったら誰かにあげてもいいし、気づいたときにと、今朝通りがかりにさっそくひとつ。

希望の小麦
「お賽銭みたいというのに、人にあげるの?」と思われるかもしれません。実は、こんな風に早々に出回ってあちこちで見かけるので、12月ギリギリになって、うっかり買いそびれていたまま売り切れになって慌てる人も毎年見聞きするんです。蒔いて芽を出させる幸せの種みたいなものだから、「欲しいけど買いそびれた」という人がいたら、楽しさのお裾分け、という感じです。
辻褄合いません? ですよね。でも、なんだかフランス暮らしって、こんな風に曖昧なままなことが多いんです。どうでもいいことは、突き詰めない。

それと、人と意見が同じである必要もないし、同じことをする必要もない、が基本。自分はどう感じるとか、こう思うというのはハッキリ口にするけれど、相手が同じ視点・反応でなくても、それはそれであたりまえのこと。だから、この小麦も、「チャリティに使われるから、ぜひここのものを」という紹介のつもりではないんです。私は、最初、「この小麦に幸せを祈るなんてとんでもないわ!」って心境だったので、知ってもすぐには始めなかったぐらいで……。以前、チョコレートの記事に書いた通り、うんと小さい頃の息子は食物アレルギーがあったので、小麦に対しては天敵みたいな気分でしたから。

1ユーロが運ぶ幸せの循環

そう、最初に買うきっかけになったのは、この団体が病気で入院中の子ども達のために動いていると知ったこと。自分たちが幸せになる小麦を買うことで寄付されるお金で、誰かの辛さを和らげたり笑顔に繋がると思うと、心温められますよね。チャリティというのは、人のためにしているようで、そこに参加したということで自分自身が満ち足りた気持ちにさせてもらえる、幸せの循環だと思っています。

まだ小さかった子どもを喜ばせようと始めたんですが、張り詰めた心がほぐされたような気になれた私の方が嬉しかったかもしれません。植物がぐんぐん上に向かって伸びる姿は、本当に、希望の麦の名そのままでしたから。

希望の小麦

たとえば、6日目。

希望の小麦

そして、翌朝7日目で、この通り。さらに2週間のクリスマスの朝にどうなるのかは……種を蒔いた人のお楽しみ!

今では、我が家の大切な行事のひとつ。毎年、朝起きたらまず水遣り! というぐらい楽しみになるほど、冬時間になって、まだ窓の外が暗いうちに起き出すツラさを吹き飛ばしてくれるエネルギー源。12月になるのが待ち遠しい習慣です。

C'est simple comme bonjour! とっても簡単!

天災・人災が世界各地で続く中、もし南仏を訪れて、どこかのレジの脇で小麦を見かけることがあったら、シアワセの種のように感じてほーっとしていただけたらと思います。

そして、もしあなたが今とても疲れていたり、何か困難なことに立ち向かわないといけないなら……ぜひ、この種を育ててみてください。あまりにもぐんぐん育つので、あっけにとられてしまうくらいです。朝晩、苗にBonjour! ボンジュー(ル)と声をかけながら、その元気さに笑い転げたくなります。
C'est simple comme bonjour!  とっても簡単! (直訳すると、=ボンジュー(ル)って言うのと同じぐらい簡単なこと)……というフランス独特の表現が脳裏をよぎって。

そうそう、フランス人たちって、ダジャレと迷信と諺が大好きです。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。英語・スペイン語も少々。