「有給休暇5週間」が伝統。フランス人たちのバカンスの過ごし方を参考にしてみる
フランス

年5週間の有給休暇はもはや伝統なフランス。一般的に、どの職業でも同様の権利を持っています。そこで、どのようにヴァカンスを過ごすかが重要になってきます。今回は、フランスのヴァカンスの過ごし方についてご紹介します。

「フランス人はヴァカンスのために働いている」……って耳にしたこと、ありませんか?

そう豪語するフランス人も確かに存在するし、日本で数多く出版されているフランス礼賛本でも、よく紹介されていますよね。

「なんてお気楽な」と思うでしょう? そして、「でも、本当なの?」とも。答えは、Oui et Non。その通りとも言えるけど、そうとばかりも言えないんです。「夏は、仕事にならない」から自然と生まれたリズム、みたいなものだから。

「夏にひと月休む」というのは避暑感覚。何しろ信じられないでしょうが、公共交通にクーラーがない場合もまだまだ多いし(メトロは結構な確率で。バスの車体や、お店の窓などに『エアコンあり』って表示があるのはそのせいです)、家庭用クーラーは、まだそんなに普及していないんです。

でもそうなると、初夏、夜10時ごろまで日が暮れない時期、どれほど暑いかということ。クーラーが普及していないから普段通りの生活なんて続けてられないし、子ども達は7月8月は2ヶ月の夏休みですが、すでに6月の最後の週は、授業でなく皆でゲームをしたりして過ごす学校も目立ちます。

夏のいっときのために、クーラーを設置したり、そのために電気代を使うなんてもったいない。それなら、その分の費用をヴァカンスに回す……という発想の人は多く、そのまま21世紀もクーラーは(一般的には)普及していないままです。

有給休暇が5週間って、本当?


ええ、年5週間の有給休暇はもはや伝統なフランス。一般的に、どの職業でも同様の権利を持っています(フリーランスや自営業でない限り)。

でも、よく言われているみたいに、夏にひと月丸々休むのは、パン屋さんや食材などの商店や一部の開業医たちぐらい。専門店や会社勤めなどの場合は、同僚同士でずらしあって1週間単位で休んだり。

子どもを持たないカップルは、わざわざ価格の高い夏の時期は避けるのがポピュラーなので、7月8月でもオフィスはそれなりに稼動できていくわけです。

昔は、たとえばマルセル・パニョルの自伝的小説その映画を見るとわかるように、一家揃って、田舎の家に避暑に出かけたりしていたようです。

夫の時代は、子どもを持つと専業主婦が多かったので、7月は母親と祖父母たちと一緒にひと月田舎で過ごして、父親は週末だけ合流。そして、8月には丸々有給をとって、家族だけで過ごしていたそうです。

いかにお金をかけずに過ごすか? 自分の留守宅の鍵、人に貸せる? 貸せない?

今でも、夏は実家や海山でのんびり滞在が主流です。どこかの観光地や異国の都市に出掛けるのは、連休を利用してとか別の休みに。

夏は、どこに出かけても暑いのは同じだし、価格も跳ね上げる時季……と言うわけで、昔からポピュラーなパターンの1つは、親族や友人の留守宅を(無料で)貸してもらうこと。

そう、有給休暇がたくさんある一方で、ボーナスの習慣はないフランス。家賃や住宅ローンを払っている状態で、どこか借りるのにも費用がかさむし、誰もいないのに電気をそのままにしておくのももったいない(冷蔵庫も空にして、ブレーカーを落とす人もいます)。

なので、お互いの住まいを訪問滞在しあったり交換、または留守宅や使っていない別荘を提供しあいましょう、というのがごくごく普通の感覚なんですね。

つまり、観光地に住んでいると、一気に訪問者が増えたりすることも。我が家もマルセイユに越した直後は、会う人会う人から必ず同じ質問が-「夏は日本に帰るんだよね。いつ鍵貸してくれる?」「春(秋)休み、泊まれる?」

フランスで暮らし始めた最初の頃、パリやニースで、1人で家具付きアパルトマンを借りていた時には、合理的でいい習慣だと思って、まったく抵抗感ありませんでした。

留守宅の植木の水遣りや郵便受けチェックのために市内の友人同士数人で持ちまわりで鍵を預かりあっていたから、誰かの家族や友人が遊びに来るなら好きに使って!という感じ。

でも、自分の家具や食器で、乳幼児もいる家族が生活するのは、考えられません。これだけは、未だにNON! 断固拒否している習慣です。

日本人だから?と、思うでしょう。でも、フランス人でも、男性女性に関係なく、絶対嫌!という人、案外いるんです。だから、もしフランスに住むことになって、こうした申し出をされても、自分の気持ちでどうぞ。

そうそう、海外駐在者がフランスに里帰りしてくる間の留守宅を借りて遠くの国でゆっくり、というパターンもよくあって、実は、この頃は日本がとても人気。息子の同級生でも、何人も夏の同じ時期に日本で過ごしていて、思い出を共有できたりもしてます。

その年の有給休暇はその年に使い切れてしまう

さて、そんなわけで、5週間といっても、子どものいる家庭には足りないぐらいです。なにしろ、そんな夏休みを終えて新学期を迎えても、約6週間ごとに2週間の学校休暇があるんです。ちなみに、10月後半からは秋休み。

11歳までは子どもを1人にしてはいけないと法律で決められているので、家で留守番させておくわけにも行かず、ベビーシッターに頼んだり祖父母の家に預かってもらったり、平日は毎日スタージュとよばれる集中講座(学校と同じ時間、預かってくれる)に通わせたり……。

でも、2週間丸々そうさせる家庭は少なくて、1週間は有給を取って一緒に過ごす両親が目立ちます。賃貸物件やクラブと呼ばれるアクティビティ付き宿泊施設も、土曜から土曜の1週間毎の契約が主流なので。

両親……といえば、離婚再婚もごくごく普通なフランス。子どもの親権は、両親双方になるのが通例で、1週間ずつ父母それぞれの家で育てられるのがフランス式。そうでない場合でも、週末は1週おき、ヴァカンスも半々、という具合に平等に過ごせる(過ごさないといけない)権利と義務があります。

この頃では、夏休みも双方の親で半々、そのほかの休みも1週間ずつ分け合うので、離婚家庭にとっては、長すぎるということはないようですが、そうでない家庭では、夏休みが長すぎるという声も年々上がってきています。

何もしないのがヴァカンス、のフランス


基本的には、ヴァカンスは休息時間。だから、旅行に出かけなくても、自宅でのんびり何もしない、という人達も。旅行嫌いなフランス人も、ごくごく稀ですけど、やっぱり存在しているんです。

そうでなくても、わざわざ観光はしたくない、という人も。家でのんびり読書したり、プール(クーラーはない代わりにプールで涼を取る習慣もあるので、そうした家やレジデンスは多いです)でのんびりする昔ながらのフレンチスタイル、も。そう、何もしないのも極上のヴァカンス。

たとえば、上は、一度は行きたいという人の多い隣国イタリアの世界遺産チンクエ・テッレ。一番賑やかといわれる集落でも、この通り。

こちらは、南仏。サントロペのリゾート・アパルトマン。表に出れば、徒歩数分でブティックやビストロが連なります。同じ地中海沿岸でも、過ごし方がまったく違ってきます。

そして、そんな風にのんびり過ごす他に、まずは、何を見たいか(子どもに何を経験させたいか)とか、何が食べたいか!で決める人も。

たとえば、私の周りでは、南西フランスの洞窟や先史時代の遺跡に連れて行ったり、フランス史の授業で中世を習う頃には、ヴェルサイユ宮殿に連れて行ったり、生フォアグラを求めて南西フランスへ向かったり、美味しいピザやパスタのためだけに、イタリア国境を越えていくことも。

ちなみに、写真は、国境を越えて30分ぐらいの浜辺のビストロ。オマールが入った、週末限定20食、25ユーロ! 予約は出来ません。本当は、手打ち生パスタなんですが、この日はパスタが品切れ。

南仏はイタリアもスペインも車でカンタンに行き来できるので、皆、すいすい行き来しています。ニースからなら車でも30分ほど、マントンなら隣町。住んでいる場所によっては、パリやノルマンディーに行くより、そこからトスカーナへと車を走らせて行くほうがうんと近くて安価だったりするのも魅力。

そう、休みが多いぶん、毎回のヴァカンスの支出も抑えないと、は大きな課題なんです。ホテルでなくキッチン付きの貸物件が人気なのも、自炊がほとんどな習慣のせい。でも、うんとシンプルカンタンに。バーベキューは定番だし、お肉屋さんでお惣菜を買ってきたり、そして、野菜はその土地のマルシェで。

さて、お金を出来るだけかけずに充実させるには、どんな工夫をしているの?


そう、とにかく、早め早めに手配すること! 宿泊費、移動費をとにかく安く、でも快適にするには、早めの準備にかかっています。

iDTGVでも書きましたが、フランスの鉄道も飛行機も、日にちや時間によって金額は大きく違うし、早割りなら19ユーロでパリとマルセイユやニース、ボルドーなどなど移動できてしまうので、夏が終われば冬の、クリスマス休暇から戻れば春のチケットをという広告が出てきます。

車ならもっと安上がりになるし、陸続きの欧州なので、隣国へもすいすいと。国境コントロールもないので、ラジオをつけていると、突然言葉が変わるのを楽しめます。

子どものいる家庭なら、クラブと呼ばれるシステム(ホテルの敷地内外のアクティビティや託児所を利用できて、食事付き。土曜午後から翌土曜朝への1週間単位での入れ替わり)はとても便利。

これも早割りもあるし、会社組織ごとに加盟しているグループで割引が受けられて、半年前から受付開始で先着順ですが、受付解禁日に売り切れでキャンセル待ちになったりする人気施設も。

この頃は、格安のホテルや部屋貸しのサイトがいくつもあって、利用直前までキャンセル無料というのもずいぶんありますよね。フランスでは、昔から個人貸しは盛んで、ネットのない時代には冊子が出ていて、電話でやりとりしていたようです。

鍵は、家主たちがヴァカンスに出るのと入れ替わりにとか、近所の人が交代で。個人小切手がポピュラーなせいもあって、予約金も郵送で。でも、直接やりとりのせいで、詐欺も目立ったといいます。

今は、各地の観光協会のホームページに、宿泊案内として各種宿泊施設の紹介がされている中に、個人貸しのものも出ています。メールや電話でやりとりできるんですが、たとえばスキーの予約をしようとしても、夏休みの8月の間にですでに予約でいっぱいになっていたりします。

春や秋のお休みに目立つ過ごし方は、国外の都市旅行。気温差がそうないし、料金も夏よりはぐっとお手軽だし、さまざまなキャンペーンがあったりします。

だから、異国で何人も知った顔と遭遇ということもしばしば。陸続き、通貨も同じEU同士の移動は、携帯通話もSMSもこの6月から国内契約のまま無料でできることになって、ますますフットワークよくなってきました。

フランス人は1年中ヴァカンスのことを話題にしているという印象になるのは、こうした背景があるからなんです。夏のヴァカンスを終えたばかりの9月の新年度での挨拶「Bonjour」に続くのは、「ヴァカンス、どうだった? 次はどこ?」……こうして情報交換が始まります。

フランス暮らしで、ヴァカンスは、遊びというよりは人生で大切なことのひとつ。食事と同じ感覚かもしれません。どこでどうやって過ごすのかを話題にするのは、コツを教えるお料理レシピみたいな部分ありますね。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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