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「呪われた山々」に残る「血の掟」とは?アルバニアン・アルプスの保守的な村を歩く

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暑さも和らぎハイキングにはもってこいの時期になりましたね。
ハイカー憧れの地・アルプス山脈。ヨーロッパ大陸を東西に貫くその峻厳な姿は多くの人の心をつかんで離しません。が、いざ訪れるとなると、西ヨーロッパの物価という、マッターホルンよりも高い壁がそびえたっているのもまた事実。
しかし東ヨーロッパの片隅にそれとよく似た景色を拝める場所があるのです。
しかもまだまだ未開拓。あなただけのハイキングができる場所。さらにこの地には、中世から脈々と続く”ある伝統制度”まで残っています。

そんなあなたを誘う場所の名は「アルバニアン・アルプス」。

三つの国にまたがる山脈

西ヨーロッパにあるアルプス山脈が、オーストリア、スイス、フランスなど7か国にまたがっているのに対し、このアルバニアン・アルプスがかかるのはアルバニア、コソボ、モンテネグロの3か国です。

現地の言葉では「Bjeshket e Namuna」(アルバニア語)または「Prokletije」(セルビア語)と呼ばれ、これらの言葉の直訳は「Cursed Mountains」(呪われた山々)。

 

名前の由来については諸説あるみたいですが、私が現地の人から聞いたのは、「昔この地を支配しようと挑んだ人がいたが、山々があまりにも厳しく征服に失敗したため、その人たちにとって呪われた山=いまいましい山め……と呼んだのがはじまり」というもの。

 

決して訪れると呪われる山でないのでご安心を。

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▲一番高い場所は2,694m

アルバニア側 バルボナ渓谷

3つの国いずれからも訪問可能なアルバニアン・アルプス。
その中でも初めて訪れようと思う方や、数日しか時間が取れないという方におすすめしたいのは、アルバニア領に属するバルボナ渓谷への旅です。

この辺りの辺境地ではめずらしく公共交通機関で訪れることができるので、個人旅行者(のお財布)にもとても優しい。
また、ベースとなるバルボナ渓谷にある村(バルボナ)自体はとても小さいですが、屋内宿泊施設とレストランがあるので、軽装備で来ても特に困ることはありません。

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▲バルボナまではちゃんと舗装された道が続いている

アルバニア人観光客は、それこそショッピングに行くような恰好で来ている人がたくさんいました。
都会の若者がメルセデス・ベンツに乗ってダブルデートで訪れる、今一番アツいスポットのようです。

そんな彼らのノリと、ガチで歩きに来ている欧米人のギャップはある意味見もの。

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▲こちらはアルバニア人団体ツアー担当のガイドさん。コンビニにでも行くのかと見まがうほどの軽装。

バルボナ村の人々の生活を垣間見ることができるのもいいと思います。
この村の面白いと感じたところは、良くも悪くも住民同士が全員知り合いということです。

 

例えば、バルボナ村に向かうミニバスの運転手さんに、「バルボナでおすすめのレストランはありますか」と聞いてみると、「全部のレストランが一番おいしい」という返事が返ってきます。
これは全員が知り合いのため、どこかひとつだけをひいきにするということができないからです。
小さなコミュニティで、お互いに助け合いながら生きている社会の特徴ですね。

 

もちろん旅人にとっていいこともあります。
バルボナ村に宿の予約なしで着いた私ですが、コーヒーを飲んだ店で、「今夜の宿を探しているのですが、誰かお知り合いで部屋を貸している人を知りませんか」と尋ねると、必ず誰かを紹介してもらえます。
「○○ならこの人」という役割分担を互いに把握していて、仕事を振り分け合う関係が成り立っているからでしょう。

cafe
▲村にあるレストラン

この辺りにある村は山奥にあるため、閉鎖的で保守的と言われていますが、そのおかげで先祖の代から脈々と受け継がれてきた生活スタイルと人間関係が、今もなお失われずに残っています。

たまにはネットでの宿探しと、匿名のレビューを参考にレストランを選ぶ旅をやめて、運を天(というかバルボナの村人)に任せた日を送ってみるのも悪くないと思います。

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▲今回泊まった宿(というか民家)。民泊できる家が多くある

中世から続く伝統が残る場所

バルボナ渓谷を訪れたらぜひ足を伸ばしてみてほしい場所があります。
バルボナ村から歩くこと約6時間。
山の反対側にある「Theth(セス)」という村です。

 

アルバニアには古くから「カヌン」と呼ばれる掟が存在します。
カヌンの中にはいくつもの決まりがあり、時にそれは現代の法制度を超えて優先されるということもあります。
その一つが「血の掟(Blood Revenge)」。
家族の誰かが殺されたら相手の家族を殺害することによって復讐を果たすという制度です。

 

北部の山岳地方(つまりこの辺)では現在でもその伝統が続いています。
そしてその時に狙われている者が隠れて暮らす石造りの塔(クーラという)がセスにはあるのです。

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photo by wikipedia
▲セスにあるクーラ。かなり大きい。

ちなみに、この伝統制度を題材にした小説が日本語でも読めるので、興味を持たれた方はぜひ一度読んでみてください。


▲砕かれた四月 イスマイル・カダレ(図書館にもあります)

今一番ノーベル文学賞に近いと言われる、アルバニアを代表する小説家の作品です。
この話の中で血の掟や北部山岳地方の生活について詳しく描かれているので、これを読んでアルバニアン・アルプスを訪れると、その体験はさらに身に迫るものになるでしょう。

モンテネグロの山 コソボの山

アルバニア側の話ばかりしていると後のふたつの地域の人に怒られてしまいそうなので、モンテネグロ側とコソボ側のことについても触れておきます。
とはいうものの、国境の線引きの関係でそれぞれ異なる国に住むことになっていますが、実はそこに住む人々も大多数がアルバニア人というオチ。

モンテネグロ側 プラブとグシニエ

モンテネグロ側を訪れる時にベースとなる町はプラブ(Plav)とグシニエ(Gusinje)です。
特にグシニエは町の規模としてはバルボナ村に毛が生えたもののようですが、ここではアルバニア系、セルビア系、ボスニア系、モンテネグロ系が互いに仲良く暮らしているというのが特徴。
さらに人口たった1,704人の町の中に、謎に商店が350軒もあり、昼夜問わず人々が町にいてとても賑わいのある印象です(ちなみに宿泊施設は7軒、コーヒー屋は27軒)。

gushinje
▲グシニエのメインストリート

コソボ側 ルゴバ渓谷

コソボ側ではぺヤ(Peja)という町が拠点になります。
ぺヤ近郊にはヨーロッパで最も深く最も長いルゴバ渓谷というのがあります。
そこではロッククライミングやサイクリングができ、また滝や洞窟へ行ってちょっとした探検気分が味わえます。
もちろんぺヤを起点にハイキングも楽しめます。

peja
▲ぺヤは国産ビールの産地としても知られている。これはビール工場

 

いかがでしたか。
ハイキングコースについては全く触れなかったので、ハイカーの方々にとっては情報不足かもしれませんが、そういう方には一度アルバニアン・アルプスを訪れていただいて是非ご自分で開拓されるということを楽しんでもらえたら、と思います。
何せまだまだ踏み馴らされていない場所なので、自己流にアレンジできる隙ばかりです!

アクセス方法

・コソボから行く場合
自家用車やツアー以外でのアクセス方法は以下を参考にしてみてください。

プリズレン(Prizren)ージャコバ(Gjakova) バス 約40分 4ユーロ
ジャコバ(Gjakova)―バラム・ツーリ(Bajram Curri) ミニバン 約1時間半 300レク
バラム・ツーリ(Bajram Curri)-バルボナ渓谷(Valbone) バス 約1時間 300レク
*ユーロ払い可 合計で9ユーロになる
*ジャコバからバラム・ツーリまでのミニバンは約1時間に1本。たまに満員になるのを待ってしか出発しない場合もある。
*バラム・ツーリからバルボナまでの最終バスは2時。

途中でバスを乗り換えるアルバニア側の町バラム・ツーリは比較的貧しい町ですが、ここで売っている玉ねぎ味のブレク(パイ生地の中に肉やチーズが入ったバルカン半島のストリートフード)だけは絶品なので、ぜひ食べてみてください。しかもお値段なんと30レク(約30円)。
 
・人口湖(Lake Koman)を通っていく場合

いずれの場所からもバラム・ツーリへ。
バラム・ツーリ ー フィエルザ(Fierza) ミニバン 300レク 約20分
フィエルザ ー シュコドラ近郊 フェリー 5ユーロ 3時間半
シュコドラ近郊 ― シュコドラ市内 ミニバス 5ユーロ 約1時間半
シュコドラ ー セス バス 100レク 4時間

その他詳しい情報はJourney to Valbona

山を見ず

実はわたし、ハイキングや山歩きというものとはほとんど無縁(ネパールに行った時もトレッキングは一切しなかった……。)の人間で、そんな人がハイキングについて書いたりしていいものか、との自問自答が執筆中幾度となく頭をよぎりました。でも、バルカンって山ばかりなんですよ。そしてその山々がいちいち魅力的。なのでここにいると文字通り山に囲まれて、自然と山にばかり行くようになるというか……。でも山に行っても結局「ここのコースがどうだ」とかより、人里離れた場所で暮らしている人々の生態の方が気になって仕方なく、今回もそちらの方がメインの内容になってしまいました。
「木をみて森(山)を見ず」どころか、「村人をみて山を見ず」ですね。語呂まで悪いし。これに懲りずアルバニアのアルプスを開拓しに来ていただけると、そんな嬉しいことはありません。
山を見ず

この記事を書いた人

y s

y s

バルカン半島好きが高じて2015年夏よりコソボを拠点に生活中。でも実際はラブ&ヘイト。過去6年間で中央アジア、ロシア、キューバ、イスラエル、バルト三国などにも訪問。ステイタスは I'm busy with being lazy。